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___好きだから
角名の返事は、短いものであり淡白な言葉だったが、その中にはAに対する熱い想いが含まれていた。
普段なら、昼飯に何を食べようか、おにぎりを何時食べようかなど、食のことしか考えていない治だったが、今日は違った。
角名の言葉が、ずっと頭の中をグルグルと駆け巡っているのだ。それも、周りが見えなくなるほど。
床に叩きつけられるバスケットボールの心地いい音も、床とシューズが擦れる度になる小刻みいい音も、今の治にとってはBGMのひとつに過ぎなかった。
「治、ぽけっとしとったら、危なかばい?」
ひょこっと顔を覗き込んで来たAに驚き、一歩後ろに下がってしまう。
Aとの距離が近くになると、他の女子がつけている甘ったるい香水の匂いではなく、柔軟剤の優しい匂いが治の鼻を掠めた。
落ち着く匂い。治は、飯の次にAのこの匂いが好きだった。
「何や、Aか。ビックリしたやんか」
「驚かせてしもうて、ごめんね。でも、珍しかね……体育の時に、ぽけってしとっと」
「……少し、考え事しよってん」
その考え事の原因が、角名のAに対する想いだとは言えるはずもなく。
言葉を少し濁して、誤魔化すように、治を見つめるAの頭を雑に撫でた。
細い髪が指の間をすり抜け、ぽろぽろと結んでいた部分が解け乱れていく。
「もう、次試合とに」
少し頬を膨らませ怒ったような表情を浮かべたAは、乱れた髪をもう一度まとめ直し1本にくくっていく。
何時も付けてある髪飾りは、体育の時だけ外している。本人いわく、大切なものだから汚れたり、壊れたりするのを避けたいらしい。
それが、角名から貰ったプレゼントだなんて誰が思うだろうか。
「A」
「どった? 治」
無性に名前を呼びたくなって。
他の男じゃなくて、俺だけを見て欲しくて。
髪を結び終えたAの名前を呼び、純粋で汚れを知らない瞳に治だけが入り込む。
他に、誰も入らなくていい。
こんなに腫れぼった目になるほど泣かせる彼氏なんて、Aの瞳に映る権利なんてない。
俺だけ。
Aの瞳に映るのは、俺だけでいいんや。
___好き
他の誰にも聞こえない声で、Aの耳元でそっと囁いた。
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ソラ(プロフ) - ami☆さん» 読んでくれてありがとぉぉ!! サイレースとパキシルね!話の途中でぶち込むね!丹精込めて書いてきます!! (2020年3月31日 23時) (レス) id: 4de741d4e7 (このIDを非表示/違反報告)
ami☆(プロフ) - ソラさん» リクエストします! サイレースとパキシルをモチーフにしたお話を読みたいです…!(ざっくりしててごめんね) お願いします! (2020年3月31日 17時) (レス) id: 8fb5979ada (このIDを非表示/違反報告)
ami☆(プロフ) - ソラさん» 凄く面白かったぁ! 頑張ってね! (2020年3月31日 17時) (レス) id: 8fb5979ada (このIDを非表示/違反報告)
ソラ(プロフ) - ami☆さん» amiちゃん!呼んでくれてありがと!ひょっと、思いついてね!亀更新だけど、がんばります! (2020年3月30日 12時) (レス) id: ab9ea58111 (このIDを非表示/違反報告)
ソラ(プロフ) - まーまーさん!読んでくださって、ありがとうございます!文字数を中々少なく出来なくて.......がんばって、少なくしてみます!アドバイス、ありがとうございます! (2020年3月30日 12時) (レス) id: ab9ea58111 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ソラ | 作者ホームページ:https://twitter.com/A5LKSPZiLYiWd6N?s=09
作成日時:2020年3月27日 18時