176.ウジ ページ26
「…びっくりした」
『ごめん』
俺は宇宙工場で1人作業をしていた。
今日は作業が上手く進まなくて、小さく舌打ちをしてソファに寝転んで目を閉じていた。
こんな時は何もしないに限る。
いつの間にか眠っていたらしい。
どれくらいの時間がたったのか分からないけど、
ふと目が覚めたら、人の気配。
この部屋に入れるのは限られているし、
驚く事もないのだが、寝起きなのも相まって無駄に驚いてしまった。
だっていつものAの香りじゃない。
けれどそこにいるのは確かにAで。
けれど違和感を感じるのは何故だろうか。
目を開けて体を起き上がらせると、俺の足元で白いパーカーを頭から被って座っている姿に近づいた。
「…どうした？」
小さく縮こまって下を向いている姿が、まるで子どものようだ。
ふっと小さく笑って、髪をかきあげる。
じっと俺を見つめるその表情はなんとも言えない。
困惑しているようだが、嬉しそうでもある。
『どうしよう』
そう呟くAは今度は悲しそうだ。
おもむろにパーカーを頭から下ろすと、露わになる新しい髪色。
あぁ、そう言えばカムバのために髪色を変えると言っていたのは今日だったか。
真っ赤だ。
俺も過去に染めたこともあるように赤い。
アイドルといえば一度は真っ赤になるだろう。
そしてついにAに赤色になれる権利が与えられたと言う事か。
「いいじゃん。似合ってる」
長い髪はボブ丈でカットされて、特に傷んでいるようにも見えない。
『ほんとに？…似合ってるかなぁ』
自信なさそうに毛先を触るAだけど、白い肌に真っ赤な髪とのコントラストがよく似合ってる。
大方、美容室ではテンションが上がって大喜びしたけど1人になると突然不安になったんだろう。
それが表情に表れていた。
『ブリーチにほんっとに時間かかって体力は削られた』
自分の時のことを思い出した。
『めちゃくちゃ派手だよね』
これまでずっと金髪にしてきたと言うのに。
それにピンクや青色、シルバーその他色々と頭皮を酷使し続けてきたくせに。
今更赤色になった事で何を弱気になっているんだ。
その様子がおかしくて仕方ない。
『やっぱり赤はだめだったかなぁ。ミンギュオッパとホシオッパのイメージが強すぎるや』
「おい、俺は」
『あぁ。もちろんウジオッパも…かっこよかった』
「忘れてんならなんでここに来たんだよ」
『んー。なんとなく？』
「お前は」
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作者名：蘭 | 作成日時：2021年12月27日 21時
