3 side N ページ42
『ちょっとちょっと、そこの人！！』
「？」
冷たいのもそのうち慣れないかなと、屈んだままぱしゃぱしゃ波をかき混ぜていたら、遠くの方で声がした。
顔を上げると、沖の方に舟が一艘浮いている。
さっきまでは確かに無かったはずだけど、こんな場所だし。
今更そんな事じゃ驚かねえぞ。
舟はゆっくりと近付いてきて、段々様子が見えてきた。
小さな木舟。船頭は恐らく一人。
海中からの光で船上は影になっているけど、静かな波間を棒一本で漕いでいるのが分かる。
澄んだ水のせいで船底がはっきり見えるから、まるで宙を進んでいるよう。
濃紺の空は夜。
もし舟が金色だったら、いつぞやの折り紙みたいだな。
『そんなとこでなにやってるのー？！危ないよー？！』
まだ距離のあるうちから、船頭の叫ぶ声が聞こえていた。
危ないって、何がだろう。
波から手を引いて立ち上がってみると、船頭は両腕で頭上にマルを作った。
これでいいらしい。
『此処の水は触っちゃダメだよ！』
船底がとっくに着きそうな浅瀬でも、舟は滑るように進んでくる。
目の前まで来て、棒を浜に刺して、ようやく止まった。
細くて長い腕。俺よりも少し高い背丈。
竹笠を被って、顔は白い布で覆われていた。
小さな船の船頭は舟に乗ったまま、俺と対峙する。
『水に呑まれたら、進めなくなっちゃうからね。』
声は明るいけど、顔隠しの布のせいで表情が見えないから何とも言えない。
何よりその面布に書いてある文字が気になって仕方ない。
流れるような筆使いで、一画目の無い「鬼」。
「鬼なの？あんたが？」
『ああ、これ？そう、鬼なの。恐いよーつって？』
船頭はそう言って顔隠しの布を摘んでみせる。
少しだけ布が持ち上がって、にやりと笑う口元が見えた。
うーん。恐くはない。
外見はただの人間だし。
『ねえ、君。乗せてってあげるよ。』
「え？」
『此処から出たいんでしょ？俺が連れ出してあげる。』
恐いよなどと言っておきながら、目の前の自称「鬼」は俺に手を伸ばしてくる。
此処から出たい。帰りたい。
何もない浜辺に、他の手段はない。
唯一の船頭から差し伸ばされた手を、俺は。
「あ、結構です。」
丁重にお断りした。
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totto(プロフ) - かえさん» ありがとうございます。本当に当たりなのか？！(笑)その辺りも含めて見ていてあげてください。 (2016年10月12日 23時) (
レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
かえ(プロフ) - 今回も大当たり間違いなしですね(^^)留守番組も楽しみですが、三人のプチ船旅も楽しみにしてますね♪ (2016年10月11日 21時) (レス) id: cf909ea54e (このIDを非表示/違反報告)
totto(プロフ) - かなさむさん» 鬼さんは正体を隠す気があるんだか無いんだか。次回更新は留守番組の予定ですが、三人のぷち船旅も楽しみにしててください！ (2016年10月11日 0時) (レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
かなさむ(プロフ) - むふむふー。鬼と俺。楽しみすぎる。 (2016年10月9日 23時) (レス) id: 87b8d3969e (このIDを非表示/違反報告)
totto(プロフ) - かなさむさん» かなさむさん、こちらこそいつもご感想をありがとうございます。ひめ姐さまはその通りです！狗神白味噌さんと一緒にいる姐さんです。彼らもそのうち再登場することでしょう。 (2016年8月12日 23時) (レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：totto | 作成日時：2015年11月29日 11時
