5 side H ページ33
大野さんの視線の先には、前に描いてくれた皆の集合絵。
ちゃんとニノも、僕の玄関も描いてある。
(どういうこと？)
「どういうこと？」
僕の疑問は翔さんが聞いてくれた。
「ニノって写真に写らないじゃん。だから、覚えてるニノが現実のニノなのか、分かんないよ。」
「そんなこと…。」
「あるよ、ある。だって俺、ばあちゃんだって怪しいもん。あんなに一緒にいたのに、写真がなきゃ。声なんか特に、記憶してんのが合ってんのか、もう分かんねぇもん。」
僕はどうだろう。
僕はきっと、写真が無くたってご主人たちを思い出せる。
それは僕が、物の性質を持っているから。ご主人たちの存在が僕の中に刻まれているから。
でも人は違うんだよね。
心がはち切れないように、忘れる力を持ったんでしょう？
悲しい事はゆっくり清めて、楽しい事はより輝かしく、自分にとって綺麗なものに、楽に持てるように、作り替えることもできる。
「ニノは何としてでも帰るって言ってたよ。」
うん、そう言ってたよ。
だから忘れちゃうとか、そんなに気にしないでいいと思うよ。
「でもニノ、いっちゃんが来た時５０年ぶりって言ってたよ？」
大野さんが訴える。
俺、そんなに待てないよ。
ここに居られるか分かんない。生きてるかも分かんない。
もしかしたら、もう二度と。
「ニノに…会えなかったらどうしよう。」
ぽつり言葉を落とした大野さん。
心配する気持ちも分かる。僕らが人よりも時間の余裕があるのは本当だもん。
けどね、大丈夫。
そんなことになったら、会えなくて悲しいのは、ニノも同じ。
「どんなに長く生きてたって、５０年は５０年だし、１年は１年だよ。」
書き置きを手に取って、翔さんが言う。
「過去を振り返った時、一生のうちの割合で見たら、１０年でさえ小さくなってしまうけれど。
今過ごしている時間の感覚は、同じゃないかな。」
一日は一日、楽しければあっという間だし、退屈なら遅く感じる。
何かを待っているなら、とても長いね。
「ニノは、ニノだからこそ、それをよく知ってるよ。
そんなニノが智くんを、待たせるはずないでしょ？」
翔さんは一度だけ目を閉じて、それから大野さんを見た。
柔らかく笑ってる、治るからねって教えてくれるお医者さんの顔。
瞼の裏に映ったのは、きっと翔さん自身の永い時間。
「翔くんも…。」
「うん？」
「翔くんも、長かったね。」
「…そうだね。」
だからニノは翔さんを頼ったのかな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 575人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
totto(プロフ) - かえさん» ありがとうございます。本当に当たりなのか？！(笑)その辺りも含めて見ていてあげてください。 (2016年10月12日 23時) (
レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
かえ(プロフ) - 今回も大当たり間違いなしですね(^^)留守番組も楽しみですが、三人のプチ船旅も楽しみにしてますね♪ (2016年10月11日 21時) (レス) id: cf909ea54e (このIDを非表示/違反報告)
totto(プロフ) - かなさむさん» 鬼さんは正体を隠す気があるんだか無いんだか。次回更新は留守番組の予定ですが、三人のぷち船旅も楽しみにしててください！ (2016年10月11日 0時) (レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
かなさむ(プロフ) - むふむふー。鬼と俺。楽しみすぎる。 (2016年10月9日 23時) (レス) id: 87b8d3969e (このIDを非表示/違反報告)
totto(プロフ) - かなさむさん» かなさむさん、こちらこそいつもご感想をありがとうございます。ひめ姐さまはその通りです！狗神白味噌さんと一緒にいる姐さんです。彼らもそのうち再登場することでしょう。 (2016年8月12日 23時) (レス) id: c963255682 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：totto | 作成日時：2015年11月29日 11時
