この世界はいつだって 7

無題のヒーロー。　side A ページ1

無題のヒーロー。











さっきからずっと、おーちゃんの鉛筆が止まったままだ。
ぽけーっと天井なのか空中なのかを見つめたまま、膝の上のスケッチブックがずり落ちそうになってる。
締め切りとか大丈夫なのかな。


「おーちゃん、なんか飲む？」

「ん…、んーん。」


返事も上の空。
どっちの意味だろう。要らないのかな？

この前、知り合いの視える人に幽霊について聞きに行ったんだって。
でも進展はなかったらしい。
最近考え込んじゃって、よくあんな感じになってるもん。


「人に憑いたら、動けんのかな…。」

「うーん、それはちょっと…。」


翔ちゃんが聞いたら怒りそうだ。
でも相手がニノなら、翔ちゃんもちょっと考えちゃうかな。

翔ちゃんは、この前松潤と月に行ってきたらしい。
お土産とか言って、写真をいっぱい見せてくれた。…何枚か貰った。
観光地みたいなもんだよって言ってたけど、遊びに行ったわけじゃないって。

みんな何かしら動いてる。
あいつの為に。


「俺ちょっと散歩行って来るね。」

「んーん…。」


出掛ける前に台所を覗いたらニノがいた。
松潤の隣で、手伝ってんのか邪魔してんのか。
いつも通り、変わんない。


「出掛けてくんねー。」

「行ってらー。」

「夕飯までには戻れよ。」

「うん、行ってきまーす。」


傾いた日が、西の空と木々の肌を橙に染める。
日陰はもう肌寒いね。空気が冷たい。



例えば。
俺が出掛けても、あいつはこの家で待っていてくれる。
俺が人狼になってこの土地を離れた時も、あいつはずっと待っていてくれた。

それなら、もしも。
もしもあいつが出掛けていったら、俺はどうするんだろう。

ニノが自由に動けるようになるのは、きっと良いことだ。
そうなったら、きっと楽しい。
だけどほんの少し、考えてしまうよ。


もしもあいつがいなくなったら。
俺は待っていられるだろうか。

2　side S→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す