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行ってらっしゃい ページ22

帽子を後ろに被ってリュックを背負った彼が部屋に入ってきた。

すでに手続きも終えたらしい。

あと数分後には彼は搭乗口に移動して、アメリカから日本へ帰国する予定だ。


一般ゲートでは入場出来ないから特別に通されたこの部屋でいつか昔のことを思い出す。

同じような上質なソファー座って、得体の知れない彼に震え続けていた。
わけも分からず連れてこられた場所で自らの選択肢を後悔し続けたが、今となっては暫くの間の別れを惜しむように隣座って笑いあっている。

その選択肢は間違っていなかった過去の私に言ってあげたい。

何度も泣いて苦しんだけれど、真実を見つけて彼と幸せになることができたのだから。



「A、聞いてる?」


そっと肩を揺らされ思考を元に戻した。


「……あっちは寒いから暖かくしてね」


急に押し寄せてきた寂しさを紛らわせるために、開けているジャケットのボタンを締めながら形を整えてそう言った。



「可愛いアナウンサーさんに浮気したらダメからね」

「もちろん」

ふっ、と口元を緩めて薬指で光っている指輪を見せながら、これもあるし、と笑った。



「怪我しないで、それだけでいいから」


「うん。怪我しねぇし、すぐにこっちに戻ってくるから」

この人は本当に…

大きな大会を目の前にして緊張する素振りさえ見せない。

大会一番の注目選手と言われようとも、彼は純粋に野球が楽しみで、ただ一直線に野球のことしか考えていないからそんな言葉はまるで届かない。




コンコンとドアが叩かれ、奥から一平さんの声がした。

どうやら時間切れのようだ。


一緒に立ち上がってドアを開けようとした時、後ろから手を引っ張られ大きな両手で顔を包み込まれた。


「もし、日本が優勝したらお願いがあるんだけど」


珍しく真剣な顔をして言うからこちらもつい真剣な顔を作って続きを待っていた。


すると、


「優勝したその日は一緒のベッドで寝てくれる?」


何を言い出すかと思ったら…
ため息をつきながら、それくらいなら仕方がないと首を縦に降った。


「っしゃ、じゃあそれ楽しみにしてホームラン打ってくるわ」


冗談とも言えない言葉でお互い笑いながら、額にキスを落とされたのを受け止めた。


扉を開けて出ていこうとする背中に一言。



「マイアミで、待ってるから」



おう、と握り拳を作る姿を見送ってこれから先の大会に向けて期待に胸をふくらませた。



行ってらっしゃい、翔平くん。

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はる(プロフ) - 初めまして!1と2、公開して頂きありがとうございます!ずっと読みたかったので一気に読みました。途中で涙止まらず…1と2を読んで3を読むとまた違った視点で読めて凄く楽しいです。話がやっと繋がりました。3の更新もホント嬉しいです!これからも待っています! (1月30日 2時) (レス) @page26 id: 7953a5096d (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - 更新、楽しみにしていました。ありがとうございます! (1月29日 23時) (レス) id: 011b5f1b71 (このIDを非表示/違反報告)
はるきち(プロフ) - もう一度初めから読みたいです…パスワード教えて頂きたいです! (1月21日 0時) (レス) id: d1652f67c1 (このIDを非表示/違反報告)
- 初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。お願いします! (12月12日 0時) (レス) id: 9c721e875e (このIDを非表示/違反報告)
ねぇい(プロフ) - コメント失礼します。初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。よろしくお願いします。 (12月1日 11時) (レス) id: 4c70fa6baa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あきら | 作成日時:2023年7月8日 12時

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