トラウトファミリー ページ21
『時々怖くて堪らない時があったりしない?
彼がいて子どももいるのに、すごく不安になる時が』
私は嬉しかった。
ジェシカさんほどの女性でも不安になる時があるのだと。
『私なんてずっと怖がってばかりです。
本当に私でよかったのかなって毎日毎日悩んで、でも結局あの人のそばにいたいから。
ただそれだけです』
『その気持ちがあればこの先何があっても大丈夫なはずです。じゃなきゃベッカムくんがこんなにも幸せに笑ったりなんてしないはずでしょう』
ジェシカさんの元へ必死に手を伸ばし、この世の全ての愛情を与えられたかのように幸せそうに笑っている。
『…その通りね。ありがとうA、さすがはショウヘイの奥さん』
さっきまでの雰囲気はどこかへ、ウィンクをパチリと私に送った。
扉の奥の廊下から何やら言い争う声が聞こえた。
『先にここに帰ってくるのはマイク、お前だよ』
『そっちなんてマイアミに来れるかどうかすら分からないんだからな。俺は心配してるよショウヘイ』
それを聞いて二人で顔を見合せて思わず笑ってしまった。
「あれ、いつの間にか仲良くなってんじゃん」
部屋に入ってきた彼にバッチリとVサインを作っておいた。
トラウトさんとハグをしながら、後ろに着いてきた愛犬のジュノくんとも挨拶をした。
『じゃあなショウヘイ。怪我すんなよ』
『そっちこそ』
球界を代表する二人の選手の会話を覗けて嬉しい限りだ。
ジェシカさんは最初に会った時より幾分か明るい顔色で私に手を振ってトラウトさんの腕に引っ付いて歩いて行った。
ベッカムくんもトラウトさんの腕に乗っかって小さな手を横に振ってくれた。
トコトコと歩くジュノくんを連れて笑い合う姿はまるで理想の家族だ。
「犬、飼いたい」
マイクの犬に負けない大っきいの、と謎の対抗心を見せた彼をはいはいと適当にあしらう。
「うちに犬は二匹もいりません。」
「じゃあ子どもは?」
間髪入れずにそう聞かれて思わず言葉を詰まらせたが、わしゃわしゃと頭を撫でて
「手のかかる大きな子どもがいるからね」
とでも言っておいた。
ムッと口を曲げて予想以上に気分を損ねてしまったようなので、ため息をつきながら意地悪せずに本音を伝えた。
「いつか出来たら幸せだな」
そう言うとみるみるうちに機嫌を取り戻し、私に抱きつく姿はやっぱり犬みたいだし子どもみたいだ。
そんな彼が一週間後、日本を背負って世界と戦う姿なんて今は想像もつかなかった。
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はる(プロフ) - 初めまして!1と2、公開して頂きありがとうございます!ずっと読みたかったので一気に読みました。途中で涙止まらず…1と2を読んで3を読むとまた違った視点で読めて凄く楽しいです。話がやっと繋がりました。3の更新もホント嬉しいです!これからも待っています! (1月30日 2時) (レス) @page26 id: 7953a5096d (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - 更新、楽しみにしていました。ありがとうございます! (1月29日 23時) (レス) id: 011b5f1b71 (このIDを非表示/違反報告)
はるきち(プロフ) - もう一度初めから読みたいです…パスワード教えて頂きたいです! (1月21日 0時) (レス) id: d1652f67c1 (このIDを非表示/違反報告)
ジ - 初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。お願いします! (12月12日 0時) (レス) id: 9c721e875e (このIDを非表示/違反報告)
ねぇい(プロフ) - コメント失礼します。初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。よろしくお願いします。 (12月1日 11時) (レス) id: 4c70fa6baa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきら | 作成日時:2023年7月8日 12時