恋と愛、嘘と結婚 3

した人 ページ11

「っ終わったぁーー！！」


ぐっと伸びをして、緊張で固まっていた身体を解した。

いつまで経ってもこの仕事は慣れない。


「大谷選手、今日はありがとうございました。」


いつの間にか後ろにいた、スポンサー会社の広報担当者に花束を貰い受けながら握手を交わした。



日本に帰国して1週間ちょっと。

息付く暇もなく、組み立てられたスケジュールを消化するために毎日撮影をして、取材を受けて、サインを書いて…

今日のこのCM撮影をもって日本での仕事を終えた。



これは毎年のことだからもう何も思わなくなったけど、やっぱりしんどいものはしんどい。
毎日野球だけをしていたいのに、そうもいかない。

お世話になっているお偉い人へ挨拶をしたり、何かを探るような目つきで詮索しようとする人間をあの手この手で交わしたりと精神的に疲れることも多い。


結婚したからか今年は特にそんな話題も多かった。


それでも頑張れたのは、いってらしゃいと笑顔で送ってくれた彼女の存在があったからだ。

結婚して尚"大谷翔平"という名前に惹かれた人間が連絡先を交換しようと持ちかけてきたり、不自然に身体に触れようとするのを腹立たしく思いながら、何とか耐えてきた。



帰国して1番楽しみにしていたところへとやっと赴けるのだから。


1年もの間、この時を待っていた。



頑張った自分。
よく耐えた自分。
偉いぞ自分。



一平さんからスマホを受け取りながら、1番上に表示されている、ある女性の名前をタップした。


自然と口元が綻ぶのを耐え切れなかった。

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