引っ越し ページ1
重い重いダンボールを何とか本棚の前に移動させて、積み上げられた本と一緒に、中に入った雪音さんから貰った英語の参考書を並べながら置いていく。
開放的な空間からはまだ慣れない家の匂いがした。
過去を思い出して、人生三度目のプロポーズを受けたあの日から早1ヶ月。
私たちはあのマンションから大きな家が並ぶ閑静な住宅街に移り住むことになった。
もちろん私は目が飛び出るような引っ越し先の家の家賃を目にして、しなくてもいいんじゃないかという話はしたが、今の家の方が交通の便が良く球場に近くて助かるのだと言われてしまえば納得するしか無かった。
それでも私は知っている。
彼がこの家に決めた一番の理由がセキュリティや治安の良さであったこと。
家にいない期間が長い彼にとってあのマンションでは少し不安だったらしい。
日々そんな彼の優しさを肌で感じているが、少し前口喧嘩したことをダンボールを片付けながら思い出した。
前の家で引っ越し先の候補地を決めようとした時、私は特にこだわりがあるわけでも無かったので、一つだけ家の条件を出してあとは彼に従おうとその条件を口にした瞬間、彼がまるで「What?」とでも言いたげな大袈裟な表情を作った。
変なことを言っただろうかともう一度言うと、
「はぁ?やだ、絶対にやだなんで?」
と猛反対だった。
彼が反対する私が出した家の条件とは、寝室が別々であることだった。
睡眠の質を何より大切にする彼にとって寝室を共にするのは有り得ないことだと考えた上での発言だった。
それを真剣に伝えると、
「一緒に寝るのが嫌なの?」
と拗ねたような口ぶりで機嫌を悪くしてしまった。
何度説得しても聞く耳すら持たないその態度に私もムッとしてしまい「じゃあもういいよ」なんて投げやりに返してしまった。
そこからが始まりで、寝室をどうするのかという口喧嘩を半日繰り返した頃に、彼を迎えに来た一平さんが間に入って「Aちゃんの言う通りにしなよ」と説得してくれたおかげで寝室論争は私の勝利となった。
家を出る寸前まで愚痴をこぼしていた彼だったが、一平さんに何か耳打ちされると、さっきまでの態度が嘘のように上機嫌になって私を抱きしめて出て行ってしまった。
思えばあれは何だったのだろうと、全てのダンボールを畳んで引っ越しの片付けを終えた頃ふとそんなことを思った。
その時、まだ聞き慣れない軽快なドアチャイムの音が家に響いた。
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はる(プロフ) - 初めまして!1と2、公開して頂きありがとうございます!ずっと読みたかったので一気に読みました。途中で涙止まらず…1と2を読んで3を読むとまた違った視点で読めて凄く楽しいです。話がやっと繋がりました。3の更新もホント嬉しいです!これからも待っています! (1月30日 2時) (レス) @page26 id: 7953a5096d (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - 更新、楽しみにしていました。ありがとうございます! (1月29日 23時) (レス) id: 011b5f1b71 (このIDを非表示/違反報告)
はるきち(プロフ) - もう一度初めから読みたいです…パスワード教えて頂きたいです! (1月21日 0時) (レス) id: d1652f67c1 (このIDを非表示/違反報告)
ジ - 初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。お願いします! (12月12日 0時) (レス) id: 9c721e875e (このIDを非表示/違反報告)
ねぇい(プロフ) - コメント失礼します。初めから読ませていただきたい為、よろしければパスワードを教えていただきたいです。よろしくお願いします。 (12月1日 11時) (レス) id: 4c70fa6baa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきら | 作成日時:2023年7月8日 12時