83.聞くだけ ページ9
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コン…、と一度、戸をたたく音がして
私が返事をする前に、障子が開かれた。
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和也「よう」
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先ほどの格好から着替えた和也が、ちらと顔を覗かせて、入ってもいいか？という顔をする。
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どうぞ、と返事をする代わりに「ひさしぶり」と返すと
その足が部屋へと入った。
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和也「…元気ないね(笑)」
A「…そう？」
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座布団を敷かずに畳の上にすとんと腰を下ろした彼が
また鋭いことを言って、息を吐くように笑った。
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和也「ま。…どうせ翔ちゃんのことでしょ」
A「…。別に、悩んでるなんて言ってない」
和也「顔に出てんだよ(笑)」
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パタパタとうちわで顔を扇ぎながら、そのまま黙った和也は
「聞いてやるから話せ」と言っている。
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A「……」
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A「…どうすれば、…この婚約、取り消せると思う？」
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和也「…………、えっ」
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しぶしぶ話を切り出した私に、素っ頓狂な声を張り上げて、彼はうちわを動かす手を止めた。
怪訝そうな眼差しが心へ突き刺さる。
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和也「なに？…翔ちゃん以外に好きなやつでもできたの？」
A「……」
和也「えっ、待って待って、……図星かよ」
A「……、好きな人っていうか、…この人ならって」
和也「この人なら？」
A「……幸せに、してくれそう…って」
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口に出して初めて気がつく、自分の図々しさ。ずっと抱えていた欲深さ。
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こんな風に思ってたんだ。
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“幸せにしてほしい”“幸せになりたい”
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ううん、違う。
違う。
こんな大袈裟じゃなくていい。
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A「……翔さまを…好いているのは、すごく苦しい」
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“笑っていられる恋がしたい”
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本当は
ずっとずっと
それだったんだ。
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作成日時：2014年3月16日 18時
