87.欲張り ページ13
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また夕方に。
そう言って一旦帰って行った雅紀くんは、すごく嬉しそうだった。
私までなんだかウキウキして、夕方までの暇な時間を疎ましく思う。
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案外陽はまだ高い。
歩くたび、床はきゅっきゅっと小鳥が囀るように軋む。
自分で思っているよりも、浮かれているのかな…、私。
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ほっこりした楽しみを胸に、小走りに廊下を進んでいると、
“なあ”
少し篭った低い声が、いきなり私の意識の全てを掻っ攫った。そう、まるごと全部。
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A「…、翔さま…」
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昼寝でもしていたのかな。
少し着崩れた甚平の胸元。だらしなく解けた紐は直されることなく項垂れている。
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ふわぁ、と眠そうな欠伸をしながら、翔さまは言った。
翔「…今日、花火あんだってな」
A「…ハイ」
翔「行くの？」
A「…」
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もしかしたら…。という期待に、私は自分の貪欲さを思い知る。
たった一瞬のこの期待に、雅紀くんとの約束を忘れてしまっている心が、すっぽかしてしまってもいいと感じている心が、…本当に憎たらしい。
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行かないです。と言えば、翔さまは私のことを誘うのだろうか。
それともどう答えてもどうでもよさそうな反応をして、自分は他の女の子でも誘ってしまうのだろうか。
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溜息なんて吐いても吐いても足りないくらい、私は私に呆れている。
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翔「どっち？」
A「…、雅紀くんから…お誘いを受けたので」
翔「そ(笑)…行くんじゃん」
A「…断る理由もなかったので」
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どうせ、私がだれと何をしようと、翔さまは私を引き止めることもなく、誘うこともなく
自分の好きなことをしてしまうんでしょう？
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翔「なんで断らねんだよ」
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それに、翔さま…。貴方は人込みが大嫌いじゃないですか。
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翔「俺がもし、今、おまえのこと花火大会に誘っても、雅紀んとこ行く？」
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ぐらり、と
眩暈がするように揺らぐ私の心は、やはりなんて欲張りで、ゲンキンで、無責任で、意地汚いのでしょうか。
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作成日時：2014年3月16日 18時
