76.嫌よ嫌よも好きのうち ページ2
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時は8月。
猛暑日が続く中、ひんやりとした車内は快適だ
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A「ねえ、松本」
松本「はい」
A「…甘い匂いがするのだけれど」
松本「…はい」
A「これは…、香水？」
松本「はい」
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お盆になると毎年、私は国龍家に戻り、そこで盆休みを過ごす
その送迎をいつものごとく松本が任された。
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車に乗り込んだ瞬間からすう…っと鼻先を掠めた香りは、いつもの彼の匂いではない。
なんとなく予想はつくけれど…
彼女の匂いであると。
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松本「翔坊が…A様の少し前に使用人と」
A「…使用人？……日鞠さん？」
松本「はい」
A「そう」
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母が…、翔さまも連れてきたら？と今年も言っていた。
毎年、その誘いを翔さまが断っていたのだけれど、それを今回は私から断った。
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A「松本は、休暇は？貰っているの？」
松本「はい。今日はこのあと、それから明日一日です」
A「そう、ならよかった」
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強引すぎる話題の変え方に、きっと彼も気まずさをおぼえているはず
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松本「…」
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A「少し…寒い」
松本「すみません。設定温度を少し上げます」
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どうして
何年も何度もこの車にお世話になってきた私や翔さまでなくて
彼女の…、日鞠さんの匂いが染み付いているの？と
こんな疑問、どこに問えばいいのかわからない
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A「…」
松本「…」
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酔ってしまいそう。
窓の外に目を向ければ、もうそこに実家が見えていた
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松本「A様」
A「…？」
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ハンドルを緩やかにきる松本の手には白い手袋。
手首までピシっと伸びたシャツ。
暑くないのかな、といつも気になっている。
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あまり自ら話を切り出さない松本から発せられた言葉は
予想外のものだった
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松本「…ご心配なさらずとも、翔坊と日鞠の用事には自分も付き添いました」
A「…、」
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振動なくゆっくりと停まった車
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落ち着いた、優しい松本の言葉に
ホッとした私がいることに気がついて、なんだかあまりいい気分ではなかった
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作成日時：2014年3月16日 18時
