礼子様と花田色の君 (ページ6)

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６　パーティーⅡ ページ6

パーティーでの演奏が決まった日からはそれはもう地獄の日々だった。
朝から晩までお琴漬け。おじい様が専属の講師を家に招き、私に指導させたのだ。
おかげで私の指には、いくつものマメができ中にはつぶれて血が出ているものまである。
それでも泣き言ひとつ言わずに練習を続けられたのは、今まで散々おじい様に厳しくしつけをされてきたせいかもしれない。

そして、私はとうとう何百人もの大病院関係者の前で演奏する日を迎えたのだった。
改めて会場を見回すと、驚かずにはいられない。
高い吹き抜け式になっている天井にはいかにも高級そうなシャンデリア。
キラキラと光るアクセサリーや装飾品を身に付けた、育ちのよさそうな貴婦人たち。
光沢のあるスーツを身にまとい、髪をワックスでなでつけた紳士たち。

そんな、異世界に圧倒されながら私はおじい様につき従い、履きなれないヒールに内心涙を流しながらも、あいさつ回りをしていた。
挨拶をするたびに同じように繰り返す自己紹介。
相手のお名前と顔は事前におじい様に渡された名簿でインプット済みだ。
口角をほんのりとつり上げて、目じりを下げる最高の微笑みをたたえながら、スラスラと自己紹介をする自分に満足しながらも、罪悪感が絶えないのはなぜだろう。
「明正大学病院坂本院長様、はじめまして。私、桜ノ宮総合病院院長、桜ノ宮祥太郎の孫の桜ノ宮礼子と申します。本日は琴の演奏をつかまつりまして、誠に僭越ながら皆様方の前でご披露させていただきます。大した腕ではございませんが、どうぞお聞き下さるとうれしく思います。今後とも我が病院のご協力とご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
すると、相手は感心したようにうなずいたのでおじい様も満足そうな顔をしていた。

そしてついに。
様々な楽器による演奏会が始まろうとしていた。
舞台裏で緊張しながらいると、おじい様が声をかけてきた。
「いよいよだな。我が病院と家の名に恥じぬ演奏を期待しているぞ。」
といって、肩をたたくおじい様に精いっぱいの笑顔を作っていった。
「ご安心ください。今までやってきたことをするだけですので。」
いってやった、という気持ちがこみ上げた。
そんなこととはつゆ知らず、おじい様は観客席の方に歩いていくのだった。
姿が消えてから、小さいため息をつく。
私は第一奏者。失敗するわけにはいかない。

司会が、はじまった。