あとはわらって ページ42
立場が逆転したのは初めてだ。
自分がドアを開けて、顔を覗かせる彼女が「ただいま」と笑うのを出迎える。
それだけだ。ドラマや漫画でもろくに描かれない、ありふれた日常の1ページ。
それが、何にも代え難いひとつの“幸せ”だと思った。
ヒーローを志してからずっと、ヒーローとしての幸せは考えたことがあったが、生活における幸せなどろくに思案したことが無かった。
もしも何か大きなヘマ(起こさないが)やどうしようもない何かが起きた時、自分はきっと一般人よりも死ぬ可能性が高い。
家庭を作ったとして、それは自分の致命的な弱みになるかもしれない。
そこまではいかなくとも、まず自分の人生の最優先事項は“強いヒーローであること”で、それ以外は必然的に二の次だ。
ヒーローに関すること以外で、愛するナニカみたいなものを、2本しかないこの腕で抱く余裕は無いし、きっと向いてない。
そう思っていた。
それなのに。
恥ずかしそうに少しだけ視線を逸らした彼女を見て、その「ただいま」を聞いた時、自分でも信じられないが一瞬頭の中が真っ白になった。
それから、
勝手に上がる口角は。
奪った荷物が重いはずなのにやけに軽い足取りは。
さっきからぐつぐつとこの胸を熱く満たすナニカは。
たぶん、“幸せ”による副作用で、
その原因は＿＿＿＿彼女を、愛しているということなんだと思った。
恋と愛の境だとか、友愛と親愛と性愛の違いだとか、そんなもん未だに知ったこっちゃねえ。
ありふれた何気ない言葉のやりとりなのに、ぶわりと感情が頭と心から溢れ出た。
たぶん理性的な理由なんてなにひとつ無い。
ただ、ひたすらにこの瞬間が、彼女が、愛おしいと本能が叫んだ。
ショートしたままのアタマでも、彼女の「ただいま」にちゃんと「おかえり」と言えてよかった。
これから彼女の「おかえり」にはちゃんと「ただいま」と返そう。
自分の帰る場所は彼女の元で、彼女が帰る場所が自分の元であると証明する言葉で、それは幸せの証でもある。きっと。
俺の腕は2本しかないが、ひとつはヒーロー、ひとつは彼女のために使えばいい。
…………あとは、多分なんも考えてねーAを、どうやってこっちに引きずり込むかだ。
・
爆豪くんがいつ自覚して結婚に向けて動き出したのか、というお話◎
昔のオメーが鈍感なだけだよバクゴー！遅えよ！というオチ
プロポーズはまた別のきっかけがあります、書きます(笑)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 67人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小川優(プロフ) - めっちゃ面白かったです!ラブラブしすぎないところがよかったです!!!!!久しぶりにいい作者様に出会えました! (2022年8月9日 7時) (
レス) id: 43275f8478 (このIDを非表示/違反報告)
ふぅ(プロフ) - 「惚れた貼れた」から読ませていただいている者です！いつも素敵なお話をありがとうございます(T_T)かっちゃんと「何か言わずとも分かる」距離感のお話は初めて読んだので、2人を暖かく見守ってるような気持ちでした…♡Part2も楽しみにしてます…！！ (2022年2月23日 9時) (レス) @page31 id: d51b99dca2 (このIDを非表示/違反報告)
えななん(プロフ) - めちゃよかったです！後日談楽しみにしてます！ (2022年2月20日 22時) (レス) @page31 id: 15071f4cc5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とろろ | 作成日時：2022年1月28日 1時
