返事はあかるく ページ41
ガチャリ、と重々しく開くドアの向こうで申し訳なさげに眉を下げるA。
「いやー、あの画面、小さいし画質悪いしで、
爆豪くんて分かんなくってさ、ごめんね。
……おかえり」
「…おー」
扉の前に居るのが同居人であると気付く前の彼女の声は、固くどこか冷たい響きを纏っていた。
その警戒心は、若い女なら必須のものだと思う。
ただでさえ自分の身一つで生計を立てる彼女なら尚更。
だからこそ、ふわりと解けるように緩んだその声と口調。
当然のように投げかけられた「おかえり」というその言葉に。
＿＿＿＿自分は彼女の“内側”にいるんだと否応なしに思い知らされて、なんだか、あまりにもむず痒くなった。
それから、注意して過ごしてみれば彼女は割と挨拶や声掛けをよく口にすることに気が付いた。「おはよう」「ありがとう」「おつかれ」エトセトラ。
チャキチャキした女ではないので、清々しい挨拶、というほど体育会系なそれではない。
性格の滲み出たややマイペースな口調で、なんでもないことのように、「ありがとー」を特によく言う。
でも自分がその中でもいちばん、彼女に「おかえり」と言われる時を心地良く感じると気付くのに、時間は掛からなかった。
彼女が自分のことを俺が帰る場所であると認識している。
正確にはただ同じ家を拠点にしているだけなのに、彼女と交わす「おかえり」「ただいま」(後者は口に出したことなど無いが)は、異様に自分の心をくすぐった。
それ以来、しつこくならない程度にわざと鍵を忘れてみた。
普通に帰宅しても必ず「おかえり」は言われるが、彼女の手で扉を開けて間近で掛けられる
犬顔に散々説教かまされた今振り返っても、当時はやはりAに対して恋愛感情のようなモノは抱いてはなかったと思う。
どちらかというと＿＿心の通じあった友に近い感覚。
口が裂けても本人達には言わんが、高校の級友と居る時のような、気楽で落ち着くあの感じ。
関係を定義付けせずとも、ただなんとなく互いに穏やかに過ごせるという点では、なんなら友人よりも家族に近かったかもしれない。
…………だったはず。なのに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 67人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小川優(プロフ) - めっちゃ面白かったです!ラブラブしすぎないところがよかったです!!!!!久しぶりにいい作者様に出会えました! (2022年8月9日 7時) (
レス) id: 43275f8478 (このIDを非表示/違反報告)
ふぅ(プロフ) - 「惚れた貼れた」から読ませていただいている者です！いつも素敵なお話をありがとうございます(T_T)かっちゃんと「何か言わずとも分かる」距離感のお話は初めて読んだので、2人を暖かく見守ってるような気持ちでした…♡Part2も楽しみにしてます…！！ (2022年2月23日 9時) (レス) @page31 id: d51b99dca2 (このIDを非表示/違反報告)
えななん(プロフ) - めちゃよかったです！後日談楽しみにしてます！ (2022年2月20日 22時) (レス) @page31 id: 15071f4cc5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とろろ | 作成日時：2022年1月28日 1時
