57 ページ8
・
すっかり日が落ちた窓の外を眺めながら、寮の1Fで爆豪を待つ。
やや乱暴な音と共に、見慣れたツンツン頭が帰ってきたのを見て、ソファから立ち上がる。
「おー、お帰り」
「……チッ」
「悪かったって。ありがとなホントに」
俺の部屋でいいか？という問いに返事はないので、下りて来ていたエレベーターに一緒に乗り込み「5」のボタンを押す。
部屋に入って、どっかりと爆豪がラグの上で胡座をかいた向かいに、瀬呂は片膝を立てて座る。
「……正直、あそこまで踏み込んだ話するとは思ってなかったわ」
「チッ……我慢の限界だったっつってんだろ。あの女に文句ひとつ付けずにただ謝って帰れんわ」
「謝ってねーじゃん」
「っるせェな！！！」
目の前で激昂する友人を「怒んなって！」と辛うじて宥める。
この男は、本当に、実は恐ろしいほど冷静な癖してどうしてこうも導火線が短いのか。
「……なんか、俺、早めにお前らのとこ行こうと思ってたのに、動けなかったわ」
ーーあのとき、数時間前、
瀬呂は1-C前の廊下に30分ほどしゃがみ込んでいた。
ドアに背を預けじっと動かない姿は、第三者から見ればさながら不審者だったことだろう。
あの時間、誰もあの場所を通らなかったことに今更ながら密かに感謝する。
爆豪をAの元にけしかけたのは、嘘偽りなく切島である。
知らなかった俺たちが、いきなり本人に“聞いちゃった”と言うよりも、気付いたお前が“話した”と伝える方がいいだろう、そう真剣な眼差しで。
しかし、瀬呂は瀬呂で、爆豪がそれをAに報告なり謝罪なりしたら、すぐに自分も教室に入って、改めて勝手にプライバシーを見聞きしたことを謝るつもりだった。
昨日の爆豪の話で新たに浮かんだ彼女の像と、これまで瀬呂が見てきた像を、擦り合わせるためにも。
ーーそのために、廊下で待機していたのに。
聞いたことないほど落ち着いたーーいつもと比べれば冷ややかさすら感じられるーー声で
余計な口を挟むことなく、むしろ対等に静けさを纏って言葉を返す爆豪。
普段の彼らの様子を知っている者が聞けば、声色が似ただけの他人ではと疑いそうな、その会話。
もちろん節々のAの軽妙な語り口や爆豪の口の悪さで、間違いなく本人たちであったとは断言できるのだが。
「……オメーがいたら、あの女はあそこまでクソ正直に話さなかっただろ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 408人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
koko - 本にして出してほしいくらい！すごいです！この小説！！！！！これからもがんばってください！ (1月2日 17時) (
レス) id: df7df485af (このIDを非表示/違反報告)
koko - ほんとに、ほんとにほんとに (1月2日 17時) (レス) @page1 id: df7df485af (このIDを非表示/違反報告)
ムム(プロフ) - 終わりです。連続コメント、長々と申し訳ございませんでした…！！！好きです。 (2022年11月29日 23時) (レス) id: 24f0804e56 (このIDを非表示/違反報告)
ムム(プロフ) - 続き。やっぱり作者様って天才ですよね？（3回目）とにかく全てにおいて大好きすぎました〜！！！ストーリーはもちろん、文章もとても読みやすくてストレスなくスムーズに読み進める事が出来ました！本当に、感動しました！！最高の作品をありがとうございました！！！ (2022年11月29日 23時) (レス) id: 24f0804e56 (このIDを非表示/違反報告)
ムム(プロフ) - 続き。時間をかけて関係を構築していくのかな？って思ってたら急にセロくんが夢主ちゃんに告白するからこっちも夢主ちゃんと同じくらいびっくりしましたよ！！自分が夢主ちゃんにとって特別だって自覚してるところがお前そういうとこやぞ…ってなりました。最高か？ (2022年11月29日 23時) (レス) id: 24f0804e56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とろろ | 作成日時：2021年7月21日 5時
