第二話 ホグワーツ特急 ページ10
お互い衝撃が冷めないまま、気まずい沈黙が流れる。
私は教科書を読むふりをしながら、チラチラとトムを盗み見た。
彼も私と同じように教科書を開いていた。前髪が目元にかかり、影を作っている。少し憂いのある表情に見える。それが何とも魅力的だ。
見つめすぎたのだろうか、不意にトムが顔を上げて、「何？」と聞いてきた。
私は慌てて、
「ご、ごめんなさい。ジロジロ見ちゃって、気持ち悪かったわよね」
「別に気にしてないよ。……それより君、英語上手いね」
「え？」
彼は少し気まずそうに、目をそらしながら、
「その……初めて会ったときも思ったけど、君は東洋人なのに、綺麗な英語を話すから。その……」
「私は、お母さんが翻訳家だから、小さい頃から英語に触れてきたの」
「そうなんだ」
「まあ、本場の人に比べたら、まだまだ疎いけどね」
「そんなこと無い！」
突然、トムが大声を出した。
彼は真剣な瞳で、私を見つめている。その真っ直ぐな眼差しに射ぬかれて、私は彼に釘付けになった。
「君の英語は、僕らのよりも発音もアクセントも綺麗だよ。もっと自信を持って良いと思う」
「……ありがとう」
こんなにダイレクトに褒められたことがなかったら、照れくさくて、私は頬をかきながら視線をそらした。
何だろう。すごく胸がドキドキする。
「ね、ねえ、あなたは動物を飼っていないの？」
胸の鼓動を誤魔化すように、話題を変える。
「……僕が飼いたい動物は学校には連れていけないから」
「そうなの？ それじゃあ家族にはどう連絡するの？」
「学校の
まずい。地雷を踏んだ気がする。
「……その、ごめんなさい」
「何が？」
「孤児院出身って知らずに、軽々しく家族の話をして」
私は俯きながら謝った。
そしたら、初めて会ったときのように、顎を掴まれて上を向かされる。
「別に気にしてない。それより君はすぐに俯く癖を直した方が良いね」
間近に整った顔が迫り、頬が熱くなる。
どうしよう。今の私、絶対顔が赤い。見られたくなくて、顔を背けた。そしたら、笑いが混じった声が降ってきた。
「どうしたの？」
「……っ！ 別に……何でもない」
「ふーん。そのわりに顔が赤いけど？」
トムが覗き込んでくる。
見られてた！ 完全に見られてた！
「〜〜〜っ！」
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
それ以上、見られたくなくて顔を両手で覆う。
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2020年2月24日 16時
