第四話 黄昏の少年 ページ27
その言葉に、温室を包んでいた張りつめた空気が霧散する。
エミリーは杖を仕舞い、他の生徒も作業を再開した。
立ち尽くしていた私に教授が近づき、
「ミス・A、怪我は？」
「あっ……えっと」
「ああ、右手が怪我してるね。君も医務室に行ってきなさい。後で補習を受けてもらうことになるが」
「わかりました」
私は教授に頭を下げると、荷物を
セシルとエミリーの心配そうな顔が視界に入ったが、今はこの場に居たくなかった。
「最悪……」
温室を出て、ポツリと呟く。
本当に、今日は最悪の一日だ。
医務室のある場所は知っているが、入るのは初めてだ。
恐る恐る中を覗くと、薬品独特の香りが入り口まで漂っていて、まっさらなシーツがかけられたベッドがいくつも並んでいる。
清潔なその空間に入ると、マダム・ポンフリーの声が聞こえた。どうやら、カーテンのしかれた真ん中あたりのベッドで治療をしているようだ。
「まったく災難でしたね。このくらいの炎症なら、薬を塗ればすぐに治ります。ああ、触らないで！」
私が怪我を負わせたカノン・トワイライトを治療しているのだろう。
やはり、重度の炎症だったらしく、私は居たたまれなくなった。
しばらく入り口付近に突っ立っていると、治療を終えたマダムが、トレイを持ってカーテンの中から出てきた。
カーテンの中を覗こうとしたけど、マダムが閉めてしまって見れなかった。
マダムがこちらに気づき、
「あら。あなたはどうしたの？」
と尋ねてきた。私が右手を差し出すと、症状を訴えるより早く、「まあ、あなたも炎症？」と声を上げた。
マダムはすぐに、トレイの上の小瓶を手に取り、丁寧に私の右手に塗ると、ガーゼをあてがった。
「今は水ぶくれですが、数日経てば
治療はあっという間に終わってしまった。
マダムに「もう良いですよ」と言われた所で、授業の終了の鐘が鳴った。
退室を促されたものの、私はトワイライトのことが気になって仕方がなかった。思えば、まだ謝罪もしていない。謝りたいけど、寝ているところに行くのも、失礼だろう。
どうしようか迷っていたが、あることを思い付き、鞄を漁る。
鞄の中から羊皮紙と羽ペン取り出すと、メモを書き、切り取って、マダムにトワイライトに渡すように頼んだ。
そうして、私は急いで次の授業に向かった。
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2020年2月24日 16時
