第四話 黄昏の少年 ページ26
泣いちゃダメだ。泣いたら、負けを認めるのと同じ。それでも、涙が
「謝りなさいよ！」
その言葉に私は絶望した。
なぜなら、その声はセシルのものだったからだ。
振り向くと、前の席にいたセシルがこちらを睨んでいる。エミリーも冷え冷えとした眼差しだ。二人は、いつだって私の味方だった。その二人が敵に回ったら、私は耐えられない。
だけど、二人の視線は私を飛び越え、犯人のレイブンクロー生に注がれていた。
「あなたたち、Aに謝って！」
離れた席に居るにも関わらず、セシルのような美人が怒ると、とても迫力があった。
「どうして私たちが謝らないといけないのよ！」
「そっちがAに手を出したんでしょう！」
私の代わりに、セシルたちが怒ってくれた。そのおかげで、私は少し冷静になる。
そして、ふと疑問に思った。前に居たのに、なぜセシルたちは私じゃないって言えるのだろう。それは相手も同じだったようだ。
「適当なこと言わないで！」
「適当じゃないわ！ 私たち、見てたんだから！」
「ウソよ！ あなたたち、ずっと前に居たじゃない！」
それを聞いて、セシルはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「ほら、やっぱりあなたたちじゃない」
相手の二人組は揃って顔をしかめ、やり取りを見ていたスリザリン生とレイブンクロー生が、「あっ！」と口を開けた。
「わざわざ私とエミリーが側にいないことを確認してやったんでしょう？ ご苦労なことね」
セシルは笑みを修め、冷え冷えとした眼差しになる。横にいるエミリーは、杖を取り出していた。
「さあ、Aに謝って」
勝負はついたかのように見えたが、レイブンクロー生は引き下がらない。
「たまたま、ぶつかっただけよ」
ぶつかったことは認めるが、あくまで事故と言い張るつもりらしい。
「ここにいるのが悪いのよ。せめて、別の所にいて欲しいわ。ほんと、この “イエロー” が……」
しかし、彼女たちの言葉は続かなかった。
“イエロー”。
日本人である私を差別する、この言葉が飛び出した途端、温室の空気が一気に冷たくなった。
いくつもの目が厳しく彼女たちを睨み、エミリーは本格的に杖を構える。それに応じて、数人のレイブンクロー生も杖を構えた。
一触即発。まさにそんな時に、教授が戻ってきた。
教授は、温室に流れる空気に気づき、静かな声で、
「作業を再開しなさい」
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2020年2月24日 16時
