プロローグ ページ2
『闇の帝王ヴォルデモート卿』
魔法界にその名を知らぬ者はいない。
マグルを廃し、純血を尊ぶその思想に純血の魔法使いたちは心酔している。
誰もが彼を恐れていた。
ただ一人を除いて……
〇
窓の外は灰色の曇天で、気分は晴れない。
最近、良いニュースを聞かないから、尚更だ。
机の上に放り投げた日刊予言者新聞の第一面には、 “彼” の “名前” が載っている。
この数年、彼の名前を新聞で見ない日はない。
それもそのはず、彼は今や、魔法界でその名を知らぬ者はいない程の人なのだから。
『名前を言ってはいけないあの人』『例のあの人』『闇の帝王』……『ヴォルデモート卿』。
彼の呼び名は、数多くある。
もう多くの者が、彼の本当の名前を忘れているのだろう。
もしかしたら、彼自身も……
「トム……」
呟いた名は、愛しい彼の名前。
愛してやまないあの人の名前。
世界があなたの名前を忘れても、あなた自身が忘れてしまっても、私は忘れなかった。
忘れられなかった。
あなたと過ごした日々を、あなたの顔を、声を、手の温もりを。
あなたが闇に惹かれているのは、ずっと前から、それこそ学生の頃から気が付いていた。
それでも、止めなかったのは私が愚かだったから。
あなたといられなくなるのが怖かったの。
「でも、今の方がよっぽど辛いわ」
トム。愛しい人。
あなたはきっと、私のことも忘れてるでしょうね。
だって、私はあなたが嫌いな “穢れた血” だから。
「それでもやっぱり会いたい」
あなたに。
目を閉じると、あの学び舎での日々を思い出した。
あなたと過ごしたかけがえのない、あの日々を……
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2020年2月24日 16時
