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・
康二「手も足も、
リハビリで触れるようになったんやん。」
膝の上に置かれていた丈の手を
俺はそっと持ち上げた。
康二「ほら、丈の手。
誰も傷つけてへん。
体も頭も大丈夫になる日、
絶対くる。やから、大丈夫。」
・
根拠は生き延びる上で重要だが、
それにしては残酷だ。
それは0か100だけを示し、
僅かな期待さえも抱くことを許さない。
そんなもの
捨ててもいいと思えたのは
俺の担当が和也から丈に変わった5年前。
失い、手放し、
全てを無くしたと
丈が己を拒絶した5年前。
・
丈「康二」
康二「ん？」
丈「俺さ、」
先程の不安をまだ拭いきれぬまま、
丈は明るげにゆっくりと話し出した。
丈「この前、仕事で男の子追いかけて。」
康二「おん、」
丈「……その子の体、俺の胴体に触った。」
康二「…え？」
丈「なんに、なんも起こらんかった。
気持ち悪くも、離れたいとも思わんかった。」
再び震え出したのは
声か、心か。
その源は
恐れか、喜びか。
丈「俺の身体、もう大丈夫なんかな？
……なぁ、康二。お願い。」
康二「……ん。」
丈「…俺に、触ってほしい。」
拒絶するのが怖い丈が、
身体を触ってくれと願った。
丈「突き飛ばしても許して欲しい。
お願い、、お前にしか頼めへん……、、」
康二「突き飛ばしても、
張り飛ばしても蹴り飛ばしても、
何してもええよ。
丈、頑張れるなら。俺触るから。」
丈「……頼む。」
ゆっくりと手を伸ばして
丈の身体へと持って行く。
5年前、拒絶症状を発症した
あの診察をして以来
久しぶりに触れる丈の身体。
強ばった肉体に
俺はゆっくり指を這わせた。
・
・
丈「っっ…ひっ、…、ぁぁああ！？！」
・
・
お互い床に叩きつけられて、
丈は左手で顔を覆い、
右手で己の身体に触れ、
ゆっくりと静かに泣いた。
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作者名：まつだいら | 作成日時：2022年5月21日 20時
