貴方の綴れに生命の音を (ページ41)

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丈side

汚れのない白い壁は

木目の手すりが優しさを与えて

光をやんわりと反射させる。

平日の病院はなんでか賑やかで、

薄黄緑の長椅子の前は

人が行き交い、空気を揺らしていた。

“受付番号89”

液晶に表示される番号と

ファイルに挟んだ感熱紙の番号の一致を確認し、

俺は席を立つ。

・

和也と共に通っていたこの病院も

この5年間で至る所が変わったが、

月に１回程度で通い続けている俺は

その劇的な変わり様を

体感することが出来なかった。

・

かかりつけの科は2階の一番端。

スピードの遅いエスカレーターに乗って

ゆっくりと階上へ上がる。

廊下の人通りは進むごとに減っていき、

最終的には全くの無人になってしまった。

丈「………。」

人の居ない待合室には

先程まで座っていたものと

同じ長椅子が置かれており

俺は診察室寄りの端に座る。

目の前のある本棚には

妙に新しい漫画誌と日焼けした週刊誌が

隣り合わせで立っていた。

空間に人が居ないだけで

ここまで暗いと感じてしまうのか。

うるさく感じる蛍光灯が

何を照らそうとしているのか

俺には見当がつかなかった。

そういえば、と

マナーモードにしたかを確認するために

スマホを取り出す。

待ち受けは子どもたちの写真。

丈「……、、笑」

素直に笑うことが出来て、

それに自分でも驚いた。

「藤原さん、どうぞ！」

やっと釣り合う声がして、

丈「あ、はい！」

看護師さんに促されるように

俺は診察室へ入る。

丈「よぉ。」

ブラインドから溢れる光が床を照らし、

「お〜丈、久しぶり〜！」

彼は照明の代わりに俺を照らした。

丈「相も変わらずそんな感じなんやな、康二」

康二「そんな感じって何よ〜！笑」

ここは俺が

唯一弱くなれる場所。

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