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記憶の風化。
5年の月日が、俺たちの和也をぼかしていく。
丈「俺も…、いつかすっかり忘れそうで怖い。」
今思い出す声も、
あの時の声とは別物で。
きっと俺の中で錬成された。
“俺”の思い込みの型で成形された和也。
俺たちのいいように整えられた、
所詮は虚妄の和也。
恭平「この店も、
変わってへんように見えて変わってるんすかね。」
和也が居なくなっても、時間は止まらなかった。
和也をそこに残して、
俺たちはどんどん進んでいく。
和也が遠くなっていく。
故人を過去に封じたまま、
この世界は変わり続ける。
丈「恭平が変えてくれるなら、
和也も喜ぶんちゃうかなぁ……」
恭平「和也くんが喜んでくれたとしても、
俺はまだ寂しい。
……まだ、和也くんの店のままでありたいっす。笑」
丈「……そうか。笑」
テーブルも、椅子も、壁紙も。
厨房の設備も、コーヒーメーカーも。
和也の店。
和也が創った、和也の仕事場。
丈「俺たちも、変わっとんのかな…」
その答えは、分からない。
一緒に変わっているのか、
それとも、皆横並びに変わっていないのか。
少なくとも、過ごしてきた時間は同じで
その時間の速さも同じ。
同じスピードで歩んでいけば、
止まっているように見えるという
前提があるとして。
それは現実か、錯覚か。
当事者の俺たちには分からない。
知ることも出来ない。
俺の呟きに、答えは無い。
丈「……そろそろ行くわ。」
恭平「…はい。」
丈「コーヒー、ありがとな。笑」
恭平「また来てください笑」
静かに席を立ち、
俺は店を後にした。
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作者名：まつだいら | 作成日時：2022年5月21日 20時
