世界は麗らか【文スト】

29. ページ30

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「A、」



「んー?」




日曜日の午後



ソファーで本を読んでいる作之助



机で絵を描く私





「どうしたの?」



「いや、なんでもない」




ふっと笑うと本に視線を戻した



どうしたんだろ



心地いい風が部屋に入ってきてカーテンをなびかせる。いい天気だなー




「ねぇ、作之助」



「なんだ?」



「呼んでみただけ」



と言うと、さっきと同じように微笑んだ




あ、そういえば




「乱歩さんと行った喫茶店 美味しかったよ。今度一緒に行こ」



「あぁ いいな」



「カレーもあった」



「そうか、楽しみだ。どこの喫茶店なんだ?」



「わりと探偵社から近かった気がする」




あと、コーヒーも美味しかったな



乱歩さんはメロンソーダだっけ





「なら、誰か行った事があるかもしれないな」




「そうだね、何気なく入ったけどそうかも」




なんて、一緒に笑い合って時間が流れる





ふと、時計を見るともう夕方 そろそろ夕飯の支度しないと




その前に洗濯物取り込もう




ベランダに出ると 作之助も来て 手伝ってくれる




「わぁ 綺麗……」





なんだか眩しくて ぱっと顔を上げると



目の前には 息を呑むほど美しい夕日



オレンジ色の光が 空いっぱいに広がっていて



紅の太陽が 地平線に沈み始めていた





「誰かが描いたみたい……」




「そうだな…」




作之助を見ると夕日を眺めるその横顔は なんだか少し寂しげに見えると同時に穏やかにも見えた




「作之助、」




名前を呼んで 次の言葉を詰まらせた





「作之助は、書かないの?」




海の見える部屋で



紙とペンだけを持って




小説を書く作之助を たまに想像する




ポートマフィアを辞めた今



なんだって出来るのに




私が絵本を描く姿を見て



いつも彼は何を思っているんだろう



隣にいるのに



それだけは 分からない



「そうだな……」




夕日を見つめたまま 小さく続けた




「Aがそばにいれば 書けるかもな」



「………ｯ!」




私を見て 微笑む



その優しい目はいつも通りの作之助だ




「海の見える所か ここからも少し見えるね」



「あぁ 綺麗だ」




そう言って 笑い合う



いつか作之助が書いた小説を 読む日が楽しみだな



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