26.幼気な子 ページ27
──『おいでA』
貴)「!」
ア)「?」
男の人の声…。でもアンダーテイカーじゃない。どこか遠くから蘇って来るような懐かしい声…。
ア)「どうかしたかい?」
貴)「……何でもない」
アンダーテイカーに続いて、朝なのに薄暗い廊下を歩く。昨日迷い込んだ部屋を通り過ぎ、アンダーテイカーと別れてからキッチンで一人パンを頬張る。
貴)「ﾛﾋﾞｰﾅ…」ﾎﾞｿｯ
昨日の夜見たことが思い出される。とても衝撃的だったけど、死体置場にいたわたしが今更驚くようなことじゃなかったはずだ。
でも分かった。それに思い出したんだ。ちょっと。
──『A!こっちに来ないの?皆で遊んだ方が楽しいんだから!ほら』
ロビーナ、あなたはわたしの大事な友だち。そして今はもう…理由は分からないけど
死んじゃったんだね…──。
──ﾎﾟﾀｯ
貴)「あ…れ…?」
目がぬれていた。何でだろう。
アンダーテイカーには分からないけど
わたしはいつでもあなたに
視(あ)
え
る
の
に。
ア)「おや…?」
貴)「!」
ア)「どうかしたのかい?」
不思議そうに口角を下げたアンダーテイカーがそっとキッチンに顔を出した。
＜アンダーテイカーside＞
お店の準備をしてキッチンへ戻ると、Aが泣いていた。彼女はただ呆然と目を開き、『あれ…?』と目元を拭い、訳もわからぬといった様子で、流水の如く涙を流す。
ｱﾝ)「どうかしたのかい…?」
貴)「ぁ…」
我ながら白々しい。本当は大方の察しがついている。きっと昨夜のことだ。
貴)「……わからない…。ただ…急に…」
震えも戸惑いも感じさせない。Aの声は、驚くほど無機質だった。
貴)「ロビーナには…いつでも視(あ)えるのに…。でも…死んだって解ったの。解ったら……なんで…?」
ここに来て、Aは小さくしゃくり上げる。おやおや…見かけによらず動揺しているねぇ。
貴)「死体なら…いっぱい見て…きたのに…」
無理もないか。小生にとっては愉しいお仕事も、幼気な少女が見ればトラウマものだろう。
ｱﾝ)「……」
Aは普段から表情に乏しいからつい忘れてしまうよ。君も充分“幼気”だったね。
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