10.救済の公告 ページ11
ロンドン・マッケンジー邸…──＜No side＞
ﾒｲﾄﾞ)「お帰りなさいませ」
アダム)「ただいま」
彼はこの家の当主だ。
執事)「お疲れ様でございます」
中年の執事に、読みかけの新聞、コートと帽子を脱いで渡す。
執事)「今日も寒うございましたねぇ」
ア)「あぁ、朝から冷え込んでいたよ。もう冬だな。ルージュは?」
執事)「談話室で暖炉にあたっておられます」
ジ)「ここよ」
執事)「! 奥様!」
当主夫人は穏やかな笑顔。夫に歩みより、お帰りなさい、早かったのねと、微笑む妻にアダムは驚いた…安堵したような表情を浮かべた。
執事)「奥様…どうかご無理をなさらないで下さい」
執事は心配そうに夫人に声をかける。愛娘が行方不明になったばかりか、子供の遺体が残され、目の当たりにした夫人である。亭主の前で気丈に振る舞っているのだと思った執事の気遣いであった。
ア)「今日は調子が良いみたいだな。安心したよ」
でも…とアダムは続ける。
ア)「クラウディアはまだ分からない。無理をしなくてもいいから。もし辛ければいつでも言うんだよ?」
ジ)「ありがとう…ダム」
ルージュはジョルジュの…ダムはアダムの愛称である。この夫妻、中々のおしどり夫婦と見える。
ア)「そういえば、今日家に客が来たと聞いたんだが」
ジ&ﾒｲﾄﾞ)「「!」」
瞬間、顔を引き吊らせた2人。それもそのはず。葬儀屋は夫人が独断で手配したものだったからだ。当主に断りなく勝手に遺体を廃するなどお咎め無しでは済まされまい。
執事)「左様でございますか?」
ア)「帰りに噂で聞いたんだ。何だ?知らないのかお前」
執事)「ええ。来客のご予定など聞いておりませんが?何か知っているか?」
メイドは自分を見やる執事の視線に、内心ドキリとした。
ﾒｲﾄﾞ)「わ、私は…」
いっそ『何も知りません』と言えたらいいのに。だがそうすれば次に問われるであろう奥方は何と言えばいい?言い逃れても不自然な振る舞いが立場を悪くする。それを知ってか知らずか、奥方はメイドに睨むように視線を送る。
執事)「? はっきり言わないか」
もういい、と呆れた執事。
ア)「ルージュは?」
ジ)「お、お客様なんて…いらしたかしら…?」
案の定、このぎこちなさである。
必死に言い訳を探す夫人であるが、何も思い浮かばない。
ジ)「!」
ふと、目に飛び込んで来たのは読みかけの新聞…その公告であった。
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ジ)「思い出したわ!
いらしたのはファントム社の方よ…!」
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