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繁華街から遠く離れ
戦争により既に廃れてしまった横浜の漁港
その漁具倉庫


一見、仮設住宅のようにも見えるが趣深く
当時の活気の残滓のように佇んでいる

潮風にさらされて枯れかけているツルが巻き付いており
遠目で見てもおどろおどろしい




明かりがポツンと灯っているが、窓には何かしらの幕が張られているようで中の様子は見えない
しかし遮光の工夫がされているのだから、隠したいものに違いない

コンテナターミナルを抜け
寂雷はその建物に近づ




こうとしたのだ




その場に不似合いな人懐っこい笑みと
彼と似ている癖っ毛


似ている?何を馬鹿な


寂雷は自身の考えを噛み殺す
乱数は笑ってこそいるもののその目には害意しかない




「じゃーくらいっ!こんなとこで会うなんてほんっと、サイアク」
「奇遇ですね、私もそう思っていたところです」




互いにこめかみをひくつかせる



「てゆーかさあ、年寄りはもう寝る時間じゃない?」
「それを言うなら、お子様も床に就く時間ですよ飴村君。この場で寝かせてほしいというのならお手伝いしますが」
「こっちのセリフだジジイ」



不毛な会話
寂雷にとってはどうでもいいことだ
ただ、彼奴の向こうにいるであろう彼のことしか考えていない





「何しに来たの」
「それは君が一番理解しているでしょう」
「ははっ!理津はそんなこと頼んでないじゃん」
「彼はそう望んでいる」
「くっだらな」


「そもそもさ、なんでこうなったかわかってんの?」





口を噤む
寂雷は深い部分の事情など知らない
ただ、取り返したい
その一心

乱数が優越感に浸った笑みを浮かべる



「寂雷って理津のことなーんにもわかってないよね」
「…」
「理津が今までなにをやらかしたか知ってる?」
「それは…」
「理津は深いとこまで足を突っ込み過ぎたんだよ。僕だって警告したのに」



いつも何かを隠し
息をするように笑い
偽りだらけで息苦しい彼を思い出す




「寂雷、僕からのプレゼント、受け取ってくれた?」




目を細め、ポケットからそれを取り出す
あの写真だ





「天下の神宮寺寂雷が男と密会とか笑える。いいネタだよね、周りはどんな目をむけるかなあ」

「言いたいことはそれで全部ですか」





寂雷はその写真を乱数の目の前で破り捨てた





「…そんなことしたって、データが残ってる限り無駄だよ。機械音痴のジジイにはわからないかぁ」

「君と出会ったことがきっと、彼の人生で一番大きな不幸ですね」

「は?」

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無月 - 2024年から失礼します。1年前にヒプノシスマイクにはまり(遅い)、寂雷先生を好きになったので読んでみましたが、2人の心情表現がリアルすぎて本人に話を聞いて書いた実話かと思ってしまうほどでした。画面も顔もびちょびちょです。ありがとうございました。 (1月11日 10時) (レス) @page42 id: 1dba4fa267 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - ぴみゃ@ごりらーさん» ありがとうございます。作中では経過時間を長めに取り、主人公と先生の中の深まりをじっくり書くことができました。僕も二人の距離感、書いていてとてもグッときます。改めて、完結までありがとうございました (2019年5月8日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - 遅くなりましたが完結おめでとうございます!主人公くんが、凄い好きで、話も深く大好きな作品で、更新が凄く楽しみでした。先生と主人公くんの会話やお互いへの思いにとても癒されました (2019年5月7日 19時) (レス) id: a355684bde (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 鉄壁炭酸カルシウムさん» 主人公は元々こんなツンデレ属性ではなかったのですがどういうわけかこんな猫系に…。わあ、嬉しいコメントありがとうございます。機会がありましたら今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 迷い犬さん» 返信遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。二人がお付き合いした後のお話でしたがなんだかんだ書いていて一番楽しかったです。最後までありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2019年3月31日 0時

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