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11: 神宮寺寂雷の世界 ページ12

寂雷の服を離し雪の手が、ぼとり、と落ちる


「……。」


 焦燥と狼狽と……。雪の顔には様々な感情が表れていた。



しゅうきんの日_集金の日_と彼は言っていた。彼は借金でもしているのだろうか?だとすれば、一体何にお金を使っているのだろう。
髪や衣服は管理がされていないことは目に明らかだし、もう思い付くことといったら賭場しかないが…。


 しかし、寂雷には雪がギャンブル依存症にはとても見えず、むしろそういった世界からは遠いところにいそうだという印象すらあった。
 それに、雪があの場所に執着する理由も謎である。
 口も心も閉ざしているかと思いきや、感情を表し懇願する姿は宝物を取り上げられた子供のように見えた。


一体何が彼をそうさせているのだろうか。しかし今外に出しても倒れることは明白だ。熱だって下がっていない。


 兎に角、何と言おうと止めておくべきだと判断した寂雷は力なく落ちた雪の手をとり、その瞳を覗き込むように見つめ、強い口調で続けた。



「君の事情は分からない。しかし、このまま外へ出ても倒れるだけだ。今はゆっくり休みなさい。」



 寂雷の説得が効いたのか定かではないが、雪は目を細めて首を垂れる。
 寂雷はその様子に少しばかり心を痛めるが、だからといって今言ったことを曲げる気は無かった。

「さあ、寝室に戻ろう。立てるかい?」

 優しく手を引けば従順な犬のようにそれに従う。相当気を落としていることは確かだ。


次に目が覚めた時には熱も下がっているだろう。彼の事情や情報を聞かなくてはいけないけれど…。


 そう考え、ちらりと引いている雪の手を見る。実際はその手首を、だが。
 もともと自分の寝巻のため少し大きいが、捲れて見える細く白い手首には痛々しい傷。まるで手錠でも嵌めていたかのような痕まであった。



 彼を着替えさせたときに不可抗力とはいえその全貌を見た。



 生傷。



 息を呑むような生傷。やはり車内で見たあれは錯覚ではなく、そしてほんの一部でしかなかった。実際はその倍以上、全身に傷が巡っている。



彼はあの行為を自らの意志で行っているのだろうか。身を売り、傷をつけられ__そうまでして彼がお金を稼ぐ理由は一体なんだ?
自らの意志であればともかく_それでも問題があるが_あれが、誰かに指示されたものだとしたら……?






 変人や奇人を好む彼が、この瞬間ばかりは、その蒼い瞳に怒りの炎を宿していた。

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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時

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