8. xoxo ページ8
己のすぐそばに生命を感じることに、私の体は慣れていない。
近づく足音、布擦れの音。そこにあった体温はいつだって私の領域を侵す者たちだ。昔の感覚と言おうか。夜、闇のとばりが降りるとどうも神経が過敏になる。
首を掴み、腕を折る。抵抗を許さない尋問の構え。最も効率的な方法。
どこの所属か。
それとも個人で雇われた同業者か。
ひとりで寝込みを襲うとは考えづらい。おそらく数人単位で監視されている。報告者がいるはずだ。なら、襲撃者一人にかける時間は限られているだろう。
ああ、あまりに細い首を掴んで、喉仏を潰そうと親指を添えた。
事態を飲み込めなくなったのは直後、ここは私の部屋だ。血と硝煙が蔓延る最前線でなければ野営地でもない。
ならば、この首は、細腕は
「ンー、おはよぉ。」
「おはようございます、明智くん。」
バツが悪くて伸ばした手を引っ込めかけるも、彼がそれを許さない。私の手に指を絡めて、ベッドへ誘う。
寝起きの、かすれた声。急なカーブを描いて跳ねる髪。
ベッドの端に腰かけて、私は彼にされるがまま。
阿呆らしいだろう。
寝ぼけるペットの愛らしさに骨抜きにされる飼い主、といったところか。
「ふぁ、あー…ねむい。さむいよぉ。」
誰と勘違いしているのやら、前にお世話になっていたという、お世話してくれた女性だろうか。甘え方が板についている。男にもそれなりに効くのだからあなどれない。
「明智くん、仕事に行ってきます。出かける時は気をつけて。」
「うん、うん…きおつける。おしごとがんばって。」
ふにゃふにゃと起き上がった明智くんは刷り込みされたガチョウのようにひょこひょこと玄関先までついてくると、羽織った布団の隙間から手を出してひらひらと振った。
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作者名:Last | 作成日時:2021年11月14日 1時