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実のところ彼を『飼う』ことについて、私の方が何かしら異存があるわけではなかった。
掃除洗濯、晩ごはんの準備までしてくれると言うし、もし悪巧みをしていたとしても…どうにかできる手がないでもない。
ひとりの人間をどうにかするなんぞ、造作もないことだ。
目下、住む家もなく、お金もない彼を放逐して野垂れ死にされる方が問題だった。つまり、良心に対する過負荷の問題だ。
「うわ、部屋広いーさすが医者。」
「寝室の他に、もう一部屋、書斎がありますから、そこを使ってください。」
「いやオレリビングで寝るんでいいっすよ。ただ手ぶらの無一文なんで、布団の準備だけお願いしたいです。」
図々しいが、それがヒモというものだろうか。
「わかりました。」
「すご、わー! 寂雷さん、ここの本、読んでいい?」
「いいですよ。しかし、若い子が楽しめるようなジャンルは置いていませんが。」
「全然大丈夫! オレ、こういうの好きだから。」
書斎の医学書に目を輝かせる姿が端正で今風の見た目とちぐはぐで不思議だ。
「ああ、そうだ。お風呂に入りますか。着替えは…適当に用意しておきますから。」
「ありがとうゴザイマース。寂雷さん、敬語いらないですって。オレのほうが全然年下だし。」
彼のパーソナルスペースの踏破の仕方は尋常ではない。見た目からして女性から好かれることなど予想がつくし、そういった気苦労は経験したことがないのではなかろうか。
彼のようなタイプはよく空気が読め、余計なことは言わず、波風立てず人に寄り添い…甘い蜜を吸う。
家賃を折半するわけでもなし、食費、光熱費、水道料金。これらが倍増してもなお、彼を傍におきたがった女性らがいるわけだ。人間とは実に興味深い。
「わかったよ、明智くん。」
結果的に、彼との生活はそう悪いものではなかった。
『ヒモ』を自称するわりに、家事全般はよくこなすし、予想の通り空気が読めて気遣い上手だ。料理も上手い。
一日中、惰眠を貪っているかと思いきや、アルバイトを転々としているらしい。
ヒモというより、フリーターとの同居生活だ。ただし家賃云々に関しては一切関与しないが。
居候するにあたって決めた
ひと月経った現在、確かに私は彼を『ペット』のような認識で養っていた。
非人道的であることは認める。
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作者名:Last | 作成日時:2021年11月14日 1時