迎え ページ49
「Aさん！」
「Aお嬢様ぁ！」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえてくる。
勇作さんと使用人たちの声だ。
「迎えか」と呟いた義勇さん。
「そう…みたいです」
言えば彼に握られていた両手が離れていく。
名残惜しく感じながら、まだほんのりと彼の熱を帯びたその手で肩に掛かっていた羽織を外す。
「ありがとうございました」
手渡して受け取った彼が首を横に振るう。
「構わない」
「今度はきちんと文のお返事出します」
言えば彼が「あぁ」と頷く。
「お気をつけてお戻り下さい」
「A殿も」
「はい」と頷くと瞬きする間に目の前から義勇さんの姿がなくなった。
はっとして近くの公園の出口を見れば、目にも止まらぬ速さで走り抜けていった彼の背中は既に小さくなっている。
今の今まで彼と話していたのに、もう彼に会いたい。
そんな気持ちが私の心に広がる。
これは…？
義勇さんに会いたいと思うこの気持ちは何？
両手に残る感触と熱を確かめるように体の前で手を握る。
ふと、雪乃が幸せそうに勇作さんの話をしていた時の事を思い出す。
あぁ、そうか。
私は、義勇さんをお慕いしているんだわ。
彼と話して楽しいと感じるのも。
会えなくて寂しかったり、恋しいと思うことも。
全て彼を好いているからだ。
何てことだろう。
私には勇作さんという婚約者がいるのに。
どう足掻いても政府非公認の鬼殺隊で刀を振るう義勇さんと、政府公認の警察に所属している父の娘である私は対立する立場にある。
こんな気持ち、知らなければ良かった。
義勇さんに会わなければ…
彼の手に触れなければ…
きっと知らないまま私は自分の運命を受け止めただろう。
それなのに気が付いてしまった。
ずっと知らなかったこの気持ちを知ってしまった今は、とても胸が苦しい。
「Aさん！」
もう見えなくなった義勇さんの後ろ姿をいつまでも見送っていると、背後から声を掛けられた。
振り向いてその人の名を呼ぶ。
「勇作さん…」
「探しました」と息を切らす彼は家の使用人を二人連れていた。
「突然部屋を飛び出すから、驚きました」
取り繕ったように笑う彼が恐ろしく見えた。
けれど私にも非がある。
「ごめんなさい」
「先ほどは私も悪かった。感情を制御できずに貴女に当たってしまった」
「いえ…」
「戻りましょう」
「…はい」と返事をして差し出された勇作さんの手を取って歩き出す。
それでも私の心は義勇さんで一杯だった。
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月見(プロフ) - はぁぶ。＠３ちゃいさん» コメントありがとうございます！１日１話ゆっくりですが更新していきますので、完結までよろしくお願いします！！ (2020年10月26日 6時) (
レス) id: 9eeadbb9f3 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。＠３ちゃい - 普通に続きが気になる…作者さんのペースで更新頑張ってください！応援してます！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 4dd2fcae8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月見 | 作成日時：2020年9月24日 19時
