何でもない ページ43
「何があった」
眉間に皺を寄せて、歩み寄ってくる彼。
さっと、体を背けて慌てて目元に残った涙を拭ってからもう一度振り向く。
「何でもありませんよ」
私の前まで来た義勇さんの手がすっと私の顔に伸びてくる。
その行動に少し前に起こった勇作さんとの出来事もあって、肩がびくっと跳ねた。
思わず半歩下がると、彼が悲しそうにな目をする。
「…すまない」
「い、いえ、驚いただけ、ですから…」
目を逸らして慌てて伝えると「何でもない様には見えないが…」と義勇さんが言う。
頑張って隠そうとしたけれど、彼には何でも悟られてしまう。
「………勇作さんと、少し喧嘩してしまいました」
「勇作殿と」
「彼にはやっぱり雪乃でなければ駄目なのかもしれません。私はあの子の代わりになれない。だから、私では彼を怒らせてしまう。…怖くなって、逃げてきてしまいました」
ぶるっと体が震えた。
「A殿…」
「ごめんなさい…こんな話」
また私は義勇さんに何を話しているのだろう。
こんなことを言っても彼を困らせてしまうだけなのに。
「いや」と短く言った義勇さんが「だが…」と続ける。
「こんな時間に女性が一人で出歩くのは危険だ。それにA殿は鬼に狙われているのだから、戻られた方がいい」
私の身を案じてくれる彼が堪らなく愛おしく見える。
だけど………
「帰りたくありません…」
口を付いて出た言葉は、無意識に出た本音に思えた。
「…A殿？………今なんと？」
けれど、小さな声だったから彼にはよく聞こえなかったようだ。
「“義勇さんらしい言葉ですね”と言ったんです」
笑って曖昧に誤魔化した。
「…そうか」と頷いた彼を見つめる。
こんな人が私の側に居てくれたら………
ついそんな事を考えてしまっていた。
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月見(プロフ) - はぁぶ。＠３ちゃいさん» コメントありがとうございます！１日１話ゆっくりですが更新していきますので、完結までよろしくお願いします！！ (2020年10月26日 6時) (
レス) id: 9eeadbb9f3 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。＠３ちゃい - 普通に続きが気になる…作者さんのペースで更新頑張ってください！応援してます！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 4dd2fcae8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月見 | 作成日時：2020年9月24日 19時
