気楽 ページ12
「───殿、A殿」
呼び掛けられている事に気が付いて慌てて返事をする。
「え、あ、はい」
「お婆様たちは今どうしておられる?」
「あ、…祖母は3年前に他界しました。母も私が女学校へ上がる前に。…今思うと、母は草むらの中で変わり果てた姿で見つかったそうなんです。それって鬼に襲われたって事だったんですかね………」
あの日の母がどうして外出したのか、今となっては思い出せない。
けれど、父がプレゼントした服を身に付けて嬉しそうに出掛けて行ったことだけはぼんやり憶えている。
「不躾だった…すまない」
「いえ、そんな…」
家族の身を案じてのとこだと分かっていたので、首を横に振るう。
「もう何年も前の事ですから、お気になさらず」
少しだけ私たちの間を沈黙が流れる。
「お気になさらず」とは言ったものの、誰でも逆の立場なら気にしてしまうものだろう。
けれど、その沈黙を最初に破ったのは義勇さんだっだ。
「…最近は毎夕のように出掛けているようだが、A殿に稀血の可能性がある以上、陽があるうちに帰った方がいい。貴女もあの男も狙われているのだから」
「義勇さん…」
まだ2度しか会っていないのに、この人は私の事を心配してくれる。
父や勇作さんと違って、うわべだけの言葉ではなく、ちゃんと身を案じてくれている。
その優しさにじわっと胸が暖かくなった。
それは親友との他愛のない会話をしたり、お母様とお婆様が生きていた頃に味わった感覚と似ていて、とても心地良い。
「つい最近まで、見ず知らずだった私を気づかってくださるなんて。義勇さんはお優しいのですね」
ぽろっと溢れた言葉に義勇さんが少し戸惑ったように口を開いた。
「…それは、初めて言われた」
「あら、そうなのですか?」
「いつも何を考えてるかわからないと、言葉が足りないとよく言われる」
その言葉に今日の会話を思い出す。
此方から質問しなければ話の意図が読めないことが何度かあったからだ。
「ふふふっ。それについては私にも少々思い当たる節があります」
別に特別楽しい話や可笑しな話をしている訳ではないのに自然と頬が緩む。
こんなにも後先考えずに思ったことを口にするのは久しぶりだった。
ずっと、父や勇作さんの顔色を窺う様に会話をしていたからかもしれない。
素直な気持ちを話すのはこんなにも楽しかったのね。
難しそうな顔をしている義勇さんと、こんなに気楽に話せるなんて思いもしなかった。
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月見(プロフ) - はぁぶ。@3ちゃいさん» コメントありがとうございます!1日1話ゆっくりですが更新していきますので、完結までよろしくお願いします!! (2020年10月26日 6時) (レス) id: 9eeadbb9f3 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。@3ちゃい - 普通に続きが気になる…作者さんのペースで更新頑張ってください!応援してます! (2020年10月25日 22時) (レス) id: 4dd2fcae8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2020年9月24日 19時