今宵、会えずとも ページ4
大分寒くなった…
季節が通り過ぎて、またこの冬がきた。
換気と外の空気を吸いたくて、窓を開けてみたが一気に冷気が入ってきて手が凍りそうだった。
1度冷えた、手は簡単には温まらない。
それは心も同じか…
寒いのが苦手な彼は大丈夫だろうか。
心配をしたところで、答えがわかるわけではない。
そんなことはこの長い10年も経てば、よくわかっていた。
でも、想わずにはいられない。
広い家にひとりぼっち。
いてもいなくてもいい。
私はそんな、存在。
彼は徹底した人だった。
本当になんというか、抜かりがなくて、賢くて、注意深い。
SNSをやることを禁じられ、思い出を写真に残すことも好まれなかった。横に並んで歩くこと際も許さなかった。
愛する人が好まないことをわざわざやるほど、私も愚かでは無い。
それだけ、聞くと本当に何が楽しいのかと思われそうだけど(たまに自分でも思っていた)嫌ではなかった。
アイドルという職業柄それは仕方ないこと。と受け入れていた。
そして、彼からすると私たちの関係は恋人なんて素敵なものでもあるまい。
いざとなれば、私は簡単に捨てられてしまうだろう。
一通りの掃除を終えて、ソファに腰掛ける。
彼が行ってしまって1年が経とうとしている。一度連休のあった日必要なものを取りに帰って来たくらいだった。
そして、私はその時家を空けていた。
ただ家族もしくは仕事の関係者からもらったであろう、食料や、お土産類そんなものがテーブルに置かれていた。
どうして私が帰ってくるのを待っていてくれなかったんだろう。
外泊していたわけでもなければ、ただ買い物に行っていただけだ。
だが、その買い物をする時間は決められていた。
見られているわけでも、報告するわけでもないのに、律儀に今でも守り続けている私を利用してその時間を狙って来たのだ。
帰宅して、薄暗い部屋に灯りを灯したとき、
テーブルに置かれた物を見た私は、淡い期待をしたんだ。
「ジンくん、いるの？」
広い家を歩き回って探した。
隠れるようなタイプではないが、探さずにはいられなかった。
そんなことは本当に無駄だった。どうしようもない、切なさが押し寄せてきて、涙が流れた。とてもショックだった。
改めて自分は、いてもいなくてもよい存在なんだと認識した。
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作者名：nunu | 作成日時：2023年12月24日 23時
