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Aはその場で崩れそうになる体を必死に脚力で支える。崩れはしないものの、体の全身は冷や汗と震えで寒ささえ感じていた。Aは拾った写真を自身の懐へと忍び込ませ唇を噛む。
この事は、遊作には話せない。
この写真は正しく彼らを裏切るものだ。私はハノイの騎士と何らかの関係を持つ人間だった。それは遊作やあの事件の被害者たちを虐げる側だったということ。Aは今正に、これまで味わったことのない恐怖を感じた。
これは自分ではない…これは…っ、これは私じゃない!
そう叫びたかった。だけど、映っている少女は明らかに自分だった。嬉しそうに微笑む少女、その笑顔が今はたまらなく憎くて。涙の出そうになる顔を必死に堪え、Aは拳を握る。もう、そろそろこの部屋を出ないと怪しまれる。Aは震える手でドアを開け、部屋から出た。部屋から出れば、そこにはすぐに遊作が待機していて、彼女は喉からひゅっ、と恐怖からの息を吸いこんだ。何故か、今は遊作と会うのが怖い。こんなことは今まで無かった。Aは無理に笑みを作り、彼の目を見ないようにする。
「遅かったな」
「あぁ…うん、書斎だったの。気になるものを流し読みしてたからかな…時間、掛かっちゃった」
『え〜。ほんとかなぁ?本当は何か隠してたり!』
「……何言ってるの、ハノイプロジェクトのことを遊作に隠してどうすんの。それを調べに来たのに」
「Ai、Aに失礼だ。謝れ」
ごめんなさぁいと謝るAi。いつも通りの悪ふざけなのに、核心をついてくる様なAiの言葉がAはとても怖かった。咄嗟にハノイプロジェクトと口にしたのは正解だったかもしれない。ハノイプロジェクトのことは私は何一つ知らないし、何も隠していないのだから。遊作はAが一つの部屋に留まっていた間、他の部屋を殆ど調べてくれたらしい。Aは彼にお礼を言うと、残り一つの部屋を見つめた。
一番奥の部屋、もし滝響子に会って、私は…。
どくり、嫌な胸の高鳴りが彼女の心を支配した。
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遊真 - これから主人公がどうなっていくのかが凄く気になります!これからも頑張ってください! (2019年8月14日 16時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
リナ - しゅりんぷさんの作品、早く読みたいです! (2019年8月6日 23時) (レス) id: cfdd277789 (このIDを非表示/違反報告)
篝月(プロフ) - 初めから読んだので、続きが凄く気になります! (2019年5月24日 23時) (レス) id: 7982b0814b (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 白哉さん» コメントありがとうございます。ソウルバーナーいいですよね。いつか二人も出せるようにしたいなとは思っております。それまでどうかこの小説とお付き合い願えたら嬉しいです。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
白哉 - できたら穂村尊とフレイム(ソウルバーナー)を出してほしいです。 (2019年1月20日 17時) (レス) id: 8418d83dca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年12月13日 0時