語り手の遺書 ページ34
ファイルナンバー1007。
そう書かれたファイルの中、パスコードも掛けずに彼は書き示す。
描かれるのは、語り手の記憶。記されたNumber.1007 クサナギ・リポート。この先、誰が手に取るかわからないそのフォルダー。だが、もし、読んだ人間がいるなら…。きっと、それを『遺書』と呼ぶだろう。そこに記されているのは、何せ彼自身の脳だ。
俺も遊作もAも、いつ危険な目に会うかわからない。LINK VRAINSで起きた身体への影響は現実世界にも影響を及ぼす。それこそ最悪、死なんて可能性も有り得るのだ。危険な橋を渡る三人。いつだって、それと隣り合わせの自分たちの未来を考え、草薙はどうしようも無く不安になる時がある。
だからこそ、ここに記す。
仁、俺はいつでもお前のことを思っている。何があろうと、いつもお前の心の傍にいる。もし誰かが、このリポートを読むことがあったら、弟に必ずそう伝えて欲しい。
自身と遊作、Aの三人。それとAIのアイ。三人と一人の出会いと、これまでの冒険譚。そして、彼の弟への思い。それが書き記されたこのファイルを、草薙は軽やかな指の動きで保存した。その時、キッチンカーの扉の開く音が鳴った。草薙は咄嗟にそちらを振り向く。
「誰だ?…遊作にAか。どうしたんだ?こんな時間に」
「夜遅くにごめんね翔一さん」
「いや、構わないさ」
ドアを開け、外から中を除く二人を招き入れる。申し訳なさそうな困り顔のAに草薙は軽く微笑み、大丈夫だと告げた。そんな隣、遊作がここに来た理由を指し示す。
「……何か胸騒ぎがするんだ」
『それで眠れなくなっちゃったんだって!遊作ちゃんってば超可愛い!』
「……黙れ」
「私は遊作が可愛いの、十年前から知ってるよ」
『うわ、惚気話!』
遊作をからかおうとして、流れ弾に当たったAiはそれを避けるように身を片方に寄せる。そんな言葉を浴びせられた遊作は照れを隠せずにAの額にデコピンした。
『けどよ…、それは俺もAも感じてんだぜ。嫌な気配をビシビシとさ!』
「嵐の前の静けさか…」
「山雨来たらんと欲して風楼に満つ…とも言うしね」
『さんう?かぜろう?』
「……何か起ころうとしている時は、穏やかに見えても僅かに違和感を感じる、という事だ」
リボルバーが動き出す気配がする、すべての鍵を握る彼が。
夜の帳が闇を隠す。明るみに出るまで、あと…
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遊真 - これから主人公がどうなっていくのかが凄く気になります!これからも頑張ってください! (2019年8月14日 16時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
リナ - しゅりんぷさんの作品、早く読みたいです! (2019年8月6日 23時) (レス) id: cfdd277789 (このIDを非表示/違反報告)
篝月(プロフ) - 初めから読んだので、続きが凄く気になります! (2019年5月24日 23時) (レス) id: 7982b0814b (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 白哉さん» コメントありがとうございます。ソウルバーナーいいですよね。いつか二人も出せるようにしたいなとは思っております。それまでどうかこの小説とお付き合い願えたら嬉しいです。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
白哉 - できたら穂村尊とフレイム(ソウルバーナー)を出してほしいです。 (2019年1月20日 17時) (レス) id: 8418d83dca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年12月13日 0時