【遊戯王VRAINS】空白アルビレオ２【藤木遊作】

トラウマタイムトラベル ページ12

｢それはロスト事件と呼ばれていたらしい。七人の子供が次から次へと行方不明になった。ある組織により誘拐されたのだ｣

財前晃がそれを話し始めると、Play makerが静止を打つ。自分の過去を他人になど語られたくない、それは燕青も同じだった。燕青が口を開いて、Play makerに何かを言おうとするも、それを彼が先に口を開いて妨げた。

｢燕青、耳を塞いでろ｣

｢…いいよ。僕も聞く｣

｢……｣

申し出を撥ね付けた燕青にPlay makerが顔を顰めると、彼を自分の方へと手を引いて、引き寄せる。それに燕青が驚けば、有無を言わさず彼の耳を塞いだ。自分が傷つかないよう、考慮してくれる優しい彼。燕青がごめんね、と彼の腕の中で目を閉じた。

あれは、思い出したくない記憶。


白い空間の中に私たちは1人ずつ、閉じ込められた。そこは何も無い、唯一VR装置だけが置かれた部屋。そこで強いられたデュエル、何度も何度も。負ければ痛いお仕置き。デュエルの弱い彼女に『甘い飴』をくれることは無かった。食事は最低限の栄養剤と水。遊作から聞く話は、彼はまだもう少し食べ物をもらっていたらしい。一人蹲った冷たい床で毛布１枚のみで寝る。地獄のようだった。まだ、死ねた方が楽だった。

VR空間で強要されたデュエルに勝ったことがないAに痺れを切らした奴らは、ついに彼女の前に姿を見せた。

そこからの記憶は途切れ途切れで、何をされたかは断片的にしか思い出せない。でもきっと、痛くて怖くて死んじゃいたいくらいの酷いこと。

彼女の胸の中に閉まった記憶はそれ以上思い出すことを拒否した。

何度も枕を濡らして寝た夜があった。
何度も何度も嫌な夢を見ては、苦しい思いをして寝られない日だってあった。

忘れようとしたことは数しれず。それを努力しようともした、成し遂げることは出来なかったけど。彼と手を繋いで、泣いて抱きしめあった数はきっと両手では数え切れないほどで。今でもあの時のことは忘れられない。

これからも私たちは怯えて生きていかなきゃいけないの？胸を抉るようなものを抱えて、日陰で朽ち果てる？苦しいのも、痛いのも全部全部嫌い。

だから、私たちは運命に抗うと決めた。それが何を意味するかは分からない、だけど、隣の彼が怯えて暮らすような日々はもう嫌だった。

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