【遊戯王VRAINS】空白アルビレオ２【藤木遊作】

・ ページ48

聴いたことのある入場曲が耳に入り、Aはぴたっと動きを止め、後ろを振り返る。可愛らしくぱちん、とウインクをしてファンサービスを怠わらないその姿。高い位置で二つに結われているシンフォニー・ブルーの艶のある美しい髪が画面内で揺れた。Aは画面を一瞥すると少し微笑み、画面に背を向ける。

｢見なくていいのかA｣

｢手伝いが終わってから見るわ｣

カップにドリンクを入れ終え、ポテトを油内からサッと取り出す。油分をぬぐい取るためのペーパーを引いた皿の上に取り出したポテトを乗せた。隣でいつものようにホットドッグを作り終えた草薙が画面の前のテーブルへと運び、皆が席につく。

｢いただきまーす！｣

｢いただきます｣

｢おう、召し上がれ｣

3人が手を合わせ、食事を始めると、それと同時にハノイの騎士とブルーエンジェルのデュエルも始まった。Aはホットドッグを両手で持ち、それにかぶりつく。遊作はさっき注文していた通りにAと同じホットドッグ、草薙はチーズドッグを食べていた。始まったばかりのデュエルに目だけ出すAi。先攻はブルーエンジェルからだった。

｢今回のデュエル、ちょっとやばい気がする｣

『え〜？何がぁ〜？』

｢ブルーエンジェルはいつも通り、トリックスターデッキでしょ｣

『え？そりゃあ、当たり前だろ』

｢Aが言いたいのは、トリックスターデッキはブルーエンジェルがよく使う有名なデッキってことだ｣

『うん？つまり？』

｢もー、Aiちゃん察し悪いなぁ。つまり、彼女の手の内は既に知られたも同然ってこと。デッキの中はほとんど丸見えの状態。バーンデッキは初見だと効果絶大だけど、その分知られると対策されやすいしね｣

Aiが大きくなるほどと頷く。心配そうに画面を見つめるAに、遊作は彼女の横顔を見つめた。Aはいつもブルーエンジェルのことになると、普段とは違う姿を見せる。自分や草薙さんに見せるものとは違う、慈愛の様な眼差し。自分と出会った頃の彼女に似ていた、からだろうか。何も知らずに巻き込まれた被害者、それを自身と重ねたからこその行動。だけど、ほんの少し。少しだけ、それが遊作には不服だった。表には出さない、だけど彼女の視線が自分の知らないものに向けられている、あぁ複雑だ。遊作は彼女から目線を外し、ため息をついた。

｢遊作？｣

｢……何でもない｣


俺の、邪な気持ちを消してほしい。

・→←天使様の御帰還

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す