あたしに、キスして。【YG】

・ ページ4

・





マリアがOBのあの人と付き合い始めたって知って

あぁもう終わったんだ、って

完全に負けた、って
そう思えればよかったのに



俺はそれができなかった



だって俺はマリアのことなんでも知ってる
同じクラス、隣の席、好きな物、嫌いな物…



俺がどれだけマリアのことを見てきたのか



それは絶対に
神に誓ってもいいけど、誰にも負ける気はしなかった





だから、俺は




キスなんか、するな
手も、繋ぐな
それ以上のことなんかもっと罪だ




いつ別れるんだ

いつ彼氏と喧嘩をするんだ

いつ彼氏が浮気して、別れて、マリアがそのことを俺に相談してくるんだ

いつ彼氏はマリアに別れを告げるんだ

いつマリアは俺にすればよかったと、後悔するんだ

いつ、いつ…








マリアが彼氏との永遠を誓ってしまう前に

どうか
彼氏がマリアを手放しますように









俺は、マリアの不幸せを願った







YG「お前毎回彼氏と…」






夕立が、来た




手に冷たいものがぽつぽつ当たってきて気づいた

白いYシャツがどんどん水玉模様になってく



頭の上にカバンを乗せて傘替わり
マリアの日傘に当たった雨が
パラパラ音を立ててる






YG「彼氏と歩いてたじゃん

　なに？今日部活だったの？」


マリア「………」






雨が強くなってきた



マリアの手元を見ると
傘の持ち手をぎゅっ、と握りなおしたのが見えた




俺は濡れるのが嫌で
日傘の中に身をかがめて入る



そうそう
俺はただ雨に濡れるのが嫌で
たまたまマリアが珍しく日傘なんか差してるから
ちょっと借りるだけ


別に近くにいたいとかじゃ……







YG「……………」

マリア「…………」







小さい日傘に二人は狭かったのか
アイツのほっぺが雨に濡れているように見えた






YG「……ごめん、ちょっと入れて」






横を向いて顔を見せないようにしたマリア

胸元まで伸ばしていたはずの
よく似合ってた黒髪の毛先が
首元で揺れていた






俺の願いは叶った





別れたんだ

髪の毛を切る、なんて
古典的すぎる





でも、なんだろう





ひょっとしたら俺は
願ってはいけないことを願っていたのかもしれない







マリア「…いいよ

　はーっ…

　しょうがないから、駅まで送ってってあげる」






あまりにも優しい声

あまりにも、か弱い声



あまりにも、寂しがり屋なマリア





俺は、こんなマリアなんか
知らない






知らないほうが、よかった





知りたく、なかった









・

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す