[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ8)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:24,484 hit

２４５ページ8

屋根のある庭先で待っていれば、トントンさんは大きめのタオルを持ってきて、そっと私にかけた。
タオルの感触があんまりにもふわふわで、何となく値段を察してしまう。

「……図書館の部屋」

……あの奥の部屋の事だろうか。
ふと言い出した彼に顔を上げると、

「エミさんに連絡して、暖炉に火入れて貰った。俺は送るまでしかできんけど」

……体が冷えたのに、気を配ってくれたらしい。
先程「風邪をひく」と言っていたし、確かにそれ位に思い至りはするのだろうが、何とも。

「……すみません」

「別に。大した手間でもあらへん。礼ならエミさんに言うといて」

……手間だろう、普通に。
少し身を縮こまらせながら、びしょ濡れの髪の水滴をタオルに呑ませる。

こんな濡れ鼠に城内歩かれても後が面倒だろうし、なるべく水が滴らない程度まで何とか持っていきたい。
タオルドライに熱心になりながら、髪が短いことに感謝した。

少しゆとりのある袖や裾を固く絞り、まぁ多少ならマシになったろうと言う所で、トントンさんは「送る」との宣言通り、図書館の方へ緩やかに歩き始めた。

彼だって、仕事がある。
こんな人間に係(かかずら)う暇がある位なら、彼を待つ仕事は幾らでも膨れ上がるに違いない。

……それでも、こういう風に＿＿＿

「……ああ、でも其処までが遠いな」

と、彼は自らの言葉に頷くような調子で言ったかと思うと、くるりと私の方に振り向き、

目に鮮やかな赤マフラーを素早く外し、軽やかな動作で首に巻き付けた。

「……！？だ、駄目です！」

私の身体はまだ濡れている。素肌だけならまだしも、髪も服も、乾かすにはタオルだけでは荷が重すぎるのだ。
つい語気を強めてしまうが、彼は何処吹く風であった。

「この時期に風邪ひいたらぐずついて長引く」

「、でも」

確かに、免疫と言う意味では下手に風邪をひくのは怖い。
と言うのは、此処に存在する病原菌に対する免疫を、私の身体が正しく持たない可能性があるからだ。

此処で生きていく中で空気中の病原菌に感染したことはないため、恐らく其処らは自然免疫が頑張ってくれているのだろうとは思う。
然し、そればかりに頼ってもいられないのは事実。後天的に獲得する免疫が此処の病原菌に対応していない可能性がある以上、下手に風邪をひきこめば、抑も風邪を引き起こす病原菌、更に弱った体にまた別の病原菌が来ては堪らない。

でも、きっと大切にしているマフラーなのだ。