[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ6)

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ああ、結局迷惑をかけたな。
解りきっていたことを胸中呟いていると、

「……ゾムは」

と、彼は色のない声で言った。

「何やかんや爆発しそうになったらな、森に行くねん」

「……森……？」

「そう。で、暴れ散らして帰ってくる」

「……」

うーん……これは、褒められた事なのか、どうか。
微妙な顔をしていると、彼は続けて、

「森に行くならそれはそれでええねんけど、城塞(ここ)で暴れ散らかすこともある」

「……」

「後は『構って構って』って誰かに引っ付いたり。まあ逆もあるけど」

「……」

何というか、解り易い方らしい。

「シャオロンは誰か煽って喧嘩する」

「……喧嘩……」

「ま、解っとる奴らやから」

喧嘩を吹っかけられても、黙って買って表に出てやるというのである。
どう返せばいいのか解らず黙っていると、

「阿呆みたいに甘いモン食う奴もおるし、莫迦デカい買い物したり、一人で酒飲みに行ったり、城下に出たり……何なら国から出たり」

「え」

それは……拙いのでは。と、心中眉を顰めた。
彼らは少なくともこの国の中枢部分なのに、そんなにあっさりと国外に出られては困るだろうに。民間人の一人旅とは訳が違うのである。

「自由な奴ばっかりやろ」

トントンさんは、くす、と笑みを零した。
仕方ない奴らだ、と言わんばかりの、……柔らかい、笑みであった。

大切に思っているのだと言う事が、その笑み以上に語れる訳がない。
そう思う程に、愛おしさに似たものが滲んだ表情だったのである。

「でもな、黙って抱え込まれるんが一番面倒やから、皆そうやって解り易く発散しとるねん。自分の中でそういう『ご機嫌取り』のルールを作っといた方が楽なのもあるとは思うけど」

……そして、そういう感情のコントロールの方法を知っているのは、真面な大人としての前提なのだろう。
前を真っすぐに見つめるトントンさんの赤い目を見た。

「やからな」

と、彼は其処で足を止めて、私を見た。
真っ直ぐに人の眼を見ることに抵抗がないのだろう。彼の眼は、熾烈なほどに赤い。

「それでええねん」

少し細める目の辺りの筋肉の動きも、よく解った。
そして彼の言葉が、彼らと言うより私を肯定するものだと気が付いた。

「あんたの憂鬱はあんただけのものやから。持て余す位なら、好きに何処かンやってしもうたらええ」

……ああ、と思った。
彼はどうしてだか、欲しい言葉を、私すら解っていないのにくれる。