[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ41)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:24,482 hit

２７８ページ41

彼女は疑似餌だから＿＿彼女に何か異変があればそれだけで大騒ぎ、姿何て消えようものなら況や、であった。
Aはその辺りを理解していて、非常に静かな、膜の張ったその下のような日々を淡々と消している。だからこそその手間が今まで省けていた。逆に言えば＿＿＿

「気にせんで」

一言言うと、トントンはさっさとその場を後にし、一直線に廊下を突き進んだ。
彼の頭の中には自明に、この城塞の地図が叩き込まれている。

＿＿＿そこで。

＿＿＿きぃんッ！！

と、鋭利で錆びの周り始めた金属同士を叩き切るような、恐ろしく不快な音と共に。

＿＿＿＿庭への廊下、地点H-S-P-13、指輪の反応止まる。

「……おう、タイムリーやけどな……」

トントンはこめかみを抑えながら呻いた。

彼に限らず、この連絡手段は一人を除く全ての幹部が嫌っている。大変便利な能力だが、一方通行だし、何よりこの不快な音質。音割れ、がさつき、音がひっくり返るのなんの。

こんな能力を平然と使うのは、発信源であるロボロに人の心がないからであり、また使う方は只発するだけでいいからだろう。と、トントンは殆ど確信している。

こんな音質を受信することになればロボロも変わるかもしれないが、それは厳しい。
ロボロの異能は、自身を中心として(・・・・・・・・)音の波を操る事＿＿特に彼は発信を得意とする＿＿で、受信には余りにも不向きだからである。

「H-S-P-13……」

幹部多しと言えど、細かい地点まで全て憶えているのは大体片手程度の数。その中に彼は当然のように名を連ねたが、それはトントンの努力の賜物以外の何でもない。

さて、連絡のあった地点＿＿廊下の、やや奥まった所である。

.

「……相変わらず」

君はいつだって、静穏に枯れるを見つめているのに。
それでも周りだけは、置いておかないのだ。

うつ伏せに、頼りなき四肢は放り出されている。
彼が揃えてやってから少し伸びた髪も、床に広がっていた。

側頭部と後頭部の丁度中間の辺りに、血が滲んでいる＿＿＿

.

.

＊＊

私何したって言うんだろう、と、意味のない言葉を吐いた。
その言葉は＿＿否、この世の言葉の八割以上に意味はない。あらねばならぬから吐き出されただけ、需要と供給の話である。

何したかと問えば、生きていると答うるのだ。

要は、そうなのだ＿＿＿

何をしたかと問えば、死んだと答うる。
後ろ指の刺され方は、古今変わらぬという話だ。