[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ5)

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言葉を返せない私に、もう一度彼は、「何やっとん」と、訊く。
そう言われても困る、私はそういう意味も込めて首を左右に振った。

「……そうか」

と、彼は諦めたのだろう、多少息の混じった声で言った。
然し、そういう諦念を見せておきながら、私をじっと見つめた。

「気は済んだんか？」

……彼は、無駄のない質問の仕方をする。
そう思った。そしてその底に、柔らかいものを感じた。

……一番近い、言葉にしてみるならば。……

「……優しいですよね、トントンさん」

「……は？」

あんまりにも自分の思っていた言葉と乖離していたらしい彼は、間抜けともとれる顔つきになった。
でも、私はそう思ったのだ。仕方ない。

全身濡れながら、私は噴水から離れた。
髪が余程水を含んでしまって、動作に揺れることすらない。

そうして雨水に全身晒した所で、私は白くはならない。
禊をするには、余りにも赤くなり過ぎたのだと思う。

「もう、行きます」

屋内に戻ってみた所で、こんなに濡れ鼠では困ってしまうだろうな。
そう思いながらも、あの時の私を叱る気にはなれないのだから、本当に馬鹿なのだと思う。

「……」

トントンさんは、はぁ、と溜息を吐いた。
そして、

「送ったるから」

と、傘を差しかけた。

……きょとんとしてしまった。
多分表情に出てしまっていたのだと思う、彼は、

「その状態で戻っても吃驚されるし、抑も風邪ひくで」

と、呆れ顔のまま言った。

……ああ、そうか。風邪か。
確かに吃驚もされるだろうな、と思って、しかし、

「……貴方が濡れます」

「俺はええねん。弱いんは肌だけやから」

肌は敏感らしい。
思わず口元を綻ばせる。

心配の仕方が、母親のようであったからかもしれない。

然し、傘を差すトントンさんは体格がいい。私が入れば、少なくともその分の面積を取ってしまうから、彼が濡れてしまうのは免れない。
出てきたのは自分の勝手なのだから、彼がそう言う明らかな実害を被るのだけは辞めたい。

此処まで出て来させてしまった時点で、少なくとも損害を被ったことは間違いがないのだが。

「此処まで濡れたら、もう変わらないと思うんです」

「これ以上体冷えるんは免れるわ。ええからほら」

腕が、強くはない力で引かれた。
アッ、と思った頃には、もう体は傘の下に引き込まれていた。

上から差す多少の光は遮られていたし、ふと見上げれば案外近い位置にトントンさんがいる。
諦める、べきか。