[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ4)

今日:6 hit、昨日:12 hit、合計:24,497 hit

２４１ページ4

庭先でぼんやりと突っ立って、雨音を聴いた。

さらさらとした優音。
大きな葉に当たって、暫くしてそれが跳ねたり、或いはあの時の噴水の石の縁に飛んだり、地面に跳ね返りながら沈んで行ったり。花弁を撫でて濡らすこともあろう。

傘は見当たらなかった。
きっと此処で濡れたら、迷惑なんだろうとも思った。

そういう想像を巡らせて置きながら、私は庭先から一歩、外へ出た。

ぬかるんだ地面を踏みぬいて、途端上から降り落ちる冷水は、粒が細やかなのだろう、痛みはない。

あっという間に肌も何も濡れていく。
髪が額に頬に張り付く。服も纏わりつくようにして肌についてくる。

この感覚だけは煩わしい。
然し、雨に濡れる感覚は、嫌いではなかった。

寧ろ。……

「……」

雨に濡れる。
ゆっくりとその中に、自らが沁み出して行くように思考が綻ぶ。

かといって、頭が冴えない訳ではない。

時期の過ぎ始めた薔薇園を抜け、しとどに濡れる花勝負を流す。
そして、水面をぐらぐら揺らす噴水に辿り着いた。

「＿＿＿＿」

踏みつけられた勿忘草はもうなかった。
その代わり、新たな小花が白く濡れそぼっていた。

＿＿命とは、かくの如き。……

ゆるゆると噴水に近寄り、輪郭だけを移す水面を見つめた。
あの日無邪気に浮き輪を掴んで海面に浮き、きゃらきゃら笑う私はいないに違いないと思った。

水面に映る、私の輪郭をなぞった。
指が輪郭を壊し、ゆらゆら揺らした。其処を、雨粒が円状に波紋を広げてぼやかした。

きっと頼りなかった私、パパはあの日の海で幼子が溺れないようにと気を配ってくれたのかもしれない。きっとそうなのだと期待している。
そして。……

手を繋いでくれたんじゃないかと考える。
その温度も、事実すらも確かめられない自分の薄情を思う。

一方、そういうものだと思っている。そう言う所が薄情だとも思う。
そして。……

指先に飽き足らず、手首まで水に漬けた。
多少は冷たさを感じた。水の中で多少白く見える私の手の甲は、やはり水面に叩かれる雨粒のためにぐらぐら揺れている。

塩辛くはない水だ。
そう解っていながら、あの日が底にあるかのようにさえ。……

「……何やっとんねん……」

呆れた声が、其処に降ってきた。
緩やかに見上げれば、彼は怪訝そうな顔を引ッ下げて立っていた。

その顔をさせたのは、明らかに私なのだろうけど。
そう思いながら、先程思った『迷惑』が急速に形になるのを感じてもいた。