[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ23)

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それを見送って、細い足音が遠ざかるのを聴きつつ、

「……あの子、ちょっと変わったなあ」

と、言うと、エミさんは、「え？」と一つ首を傾げてから、

「……ああでも、そうですね、柔らかい表情が増えたかもしれません」

と、目を細めた。
ただその動作は、……と言うより、その言葉は、場に波風立たないように出された言葉にも、やや近い色をしていた。

「……何やあるん？」

「えっ」

エーミールは、俺がすっぱりと切り込んだからか、一度吃った。
そして、一瞬部屋をくるりと回るように視線を一周させてから、

「……彼女、此処に来て大分経つやないですか」

「せやね」

「それでも、……こう、」

適切な言葉を探そうとしてか、一度エミさんは黙り込んだ。
そうして空中で視線を羽搏くように彷徨わせてから、

「……暗い所が、消えんと言うか。否、昏い、と言うより、……」

まるで今此処で生きとること自体を、余生の道楽にしとるみたいな＿＿＿

「……そんな感じが、いつまで経ってもある、と言うか」

エミさんは難しい顔で、

「そら、それでええんかもしれませんし……」

……彼はその先を言うにはあまりにも優しすぎた。だから、黙ったのだろう。

彼女の存在が＿＿＿不必要な諍いを生じさせる可能性がある事。

つまり、彼女と言う存在が消えるというその一事で、これから先起こりうる抗争が消えるだろうこと、＿＿＿

「エミさんは優しいからなあ」

腕を組むと、彼は目をしばたたかせた。そして、

「否、私は別に優しィはないですよ。これは只、」

＿＿＿＿そう、これは只の、憐憫だ＿＿＿＿

エーミールは心の中で言葉を嚙み砕いた。
そして顔を上げ、

「それより。ええんですか、此処で油売っとって？……」

と、眉を下げた。

……彼の言葉を受け取った(・・・・・)ことを、言う必要はなかったから、此処でこの話は切り上げるべきなのだろう。
俺は、

「結局紅茶飲み損ねちゃったやん」

「はは……また来て貰うたら」

.

＊＊

side yours

「……うん、前よりは健康体に近づいたかなあ」

と、しんぺい医師(せんせい)は頷いてから、診断結果が載っているのだろう数枚の紙から顔を上げた。
そんなにも前は不健康だったのだろうかと苦笑したくなりながら、

「そう、ですか」

と、相槌ともつかぬものを打つ。

「うん、初めなんて正直段々衰弱しとったしねえ。……」

酷い言われようである。