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エーミールの頭は非常にハイブリッドで、且つマルチタスクも何のその、と言う大変優秀なものだ。
そういう彼にとって、来る戦争の作戦を考えながら、経済学の論文を読むというのは当たり前にできること。
その感覚は恐らく、＿＿例えば、紅茶を楽しみながらチョコレートをつまむという、その程度のレベルでやっている＿＿に、近い。
正直、慄然とする。
うちの幹部たちは誰しもがそういう、ふと気が付けば戦慄するような一物を抱えているものばかりだが、エーミールはそれの最たる例の一つではなかろうか。
「……あの、」
彼女はおずおずと、縮こまりながらも瞳を上げて、
「それじゃ私、失礼します」
……成程。気を遣わせたらしい。
Aちゃんからすればまあ、そういう感覚にもなるのだろうが。……
「アレ、もう行きますか？」
「はい、
眉を下げた彼女は、机の上に置いていた本を殆ど音をさせず取った。
彼女の言う『センセイ』は、先生ではなくて、ぺ神の事だ。
「もしかして、風邪でも引いてしまいました？」
エーミールが途端心配そうな顔をしたからか、Aちゃんは、あからさまに「あ」と言わんばかり、しまったという顔をする。
そして、慌てた様に、「いえ、そうではなくて」と弁明に入った。
「定期的な検診を、やっていて。それは先日で、えっと、今日はその件で」
本を抱え込み、Aちゃんは、
「多少検査の結果を、研究者の方に回したりしているそうで、そのこととか……とにかく、何処か悪いと言う事は、ないんです」
この研究者の方、と言うのは、間違いなくあの彼の事である。
狐面の、よくお世話になるあの研究者の顔を思い浮かべながら、そういえばそういう話をしていたっけか、と思い出す。
……そして、この辺りは本当に相変わらずらしい。
俺たちの心配や迷惑が、最低限にしかかからないようにしたい、そういう心の動きはいつまで経っても変わらなさそうだ。
こういう所に当然のように縋ってもいるし、逆にそれが裏目に出ている所も、ある。……
「それなら、ええんですけど」
エミさんがほっとしたような顔つきになったからか、彼女は愈々申し訳なさそうに顔色を悪くしつつ、肩を撫でおろした。
彼女はするっと、衣擦れ以外の肉体的な音が殆どない動作で立ち上がった。
隠密的な動作と言うのではなくて、ある種、＿＿
彼女はそれじゃ、と頭を下げてから、静々と退室した。
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2021年5月8日 20時
