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まあ確かに、自家製で育てているとなれば口に入る場所なんて言うのはまず限られるわけで、其処に自分と言う異分子が雑ざることを恐れて言う、と言う所だろう。
彼女の思考回路は、何となく
「前は小麦とか育てとったの、見せてくれたりしてんけど」
「見てみて〜、大収穫よ〜」などと大変機嫌がよかった彼の事は多少珍しくて覚えている。
それは彼が、今の様に膨大な喪失を食らっていないからかもしれないが。＿＿
「小麦、ですか……」
と、彼女は少し目を見張った。
詳しくないとは言うが、その辺りの感覚はあるらしい。
「本格的やなーって思った？」
一度目を瞬かせて、Aちゃんは頷いた。
思考を先回りした言い方になったが、もう慣れてきているらしい。
「防衛戦でも何とかなるようにしてるんよ。城塞やからね、そういうモンなんや」
一瞬、微妙な、何とも言えないような顔になる。
然しすぐにその表情を消し、そうなのですか、と言う。
この辺りは正直な話を言うと常識的な話だと思う。
城塞なんてそういうものだ。大人になれば態々確認するまでもなく話をする程度の常識だ。
まあ、うちの様に殆ど全てを自給自足できるようにしている城塞は多少異色なのかもしれないが、別に開けっ広げにしているわけでもないが隠匿していることでもない。
彼女のこの辺りの感覚から、彼女が言っていた、「戦争のない国」が故郷だという話は、やはり彼女にとっては嘘ではないのだとよく解る。
そういう常識すら常識ではないような。＿＿
すると、蝶番が軽く羽搏く音と、緩やかな足音がする。
其方を見ると、本を抱えたエーミールが立っている。
ああそういえば、彼に会いに来たのもあったんだったかと思いつつ。
「アレ、オスマンさん。何かありましたか？」
「否、此方の仕事済ませに来て、ついでに此処寄ってん」
首を傾げる柔和な表情の彼にそう返すと、彼女は多少小さくなるように身動ぎした。
存在感をできうる限り小さくするように、自分がいた事実すら消そうとするようなそれは、ある種本能的なものなのかもしれない。
「大丈夫なんです？」
「ええよ〜、急ぎの仕事やないもん」
……多少語弊があった。
急ぐと言えば急ぐが、直ぐに済むので急ぐ必要性が薄い。
「エミさんは？」
訊きながら、論文だなと思った。
＊＊
rnの『喪失』は別に伏線でも何でもないです。
『白』と言う解釈でも何でも
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2021年5月8日 20時
