[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ13)

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その感情の動きは全く予想していなかったので、私は図らず怪訝な顔つきになる。
混乱がよく伝わる顔になっていたろう。

彼はしかし、その笑顔でニコニコして、

「優しいんですね」

と、言うのである。

……優しい、と言うのは。

「……私は、優しく何て」

違う。
私は、優しいなどと言う言葉を宛がわれる資格はない。

「私の事、気にしてくれてたんでしょう」

と、彼はティーカップをソーサーに戻した。

「あの時の貴女の行動は妥当でした。そして正しくもあった」

「……」

それを机の上に置いて、彼は此方に一歩近寄った。
かちゃ、と陶器の擦れるようなぶつかる音が、外耳を触れるようにして。

「またあの時のリベンジをさせてくれませんか？あの時の紅茶は、此処最近で一等巧く淹れられてたんです」

とびきりの紅茶と、とっておきの御茶菓子と。
そして、お気に入りの本とを携えて。

「きっと次は、もっと巧く淹れます」

＿＿＿例えばそれは、生れ落ちて、柔らかな感情だけ携えた少年でもあった。
迷子を解(ほど)いてあげた子供が、きっとお礼をしますと笑って母親の手を繋ぐよりも現実的で、それ以上に、＿＿＿。

「……その時は」

指先を糸が縛る。
それを感じながら、彼の余りにも白い、『オヒトヨシ』と言うにもまだ柔すぎるそれを、振り切るだけの勇気もなかったのである。

私は優しくない。
弱いのである。

神経質な弱さを抱えているだけなのである。

「ストレートを、飲ませて下さる？」

砂糖もレモンも、ミルクもいい。
でもそれ以上に、茶葉の香り、水色、それそのものの味を、楽しむ。

それがやはり、紅茶を楽しむなら、正解だと思うのである。

私の、あんまりにも皮肉めいた我儘にも、彼はにっこりとするばかりだ。ほっとした、と言わんばかりでさえある。
純真な程のそれに、少し心配になる。

「勿論。とっておきの茶葉とお茶請けを用意します」

……エーミールさんは、とても柔らかい人だと思った。
生粋の御人好しなのだろう。そして、＿＿。

その新雪の如き柔らかさを、未だ深山の様に踏み躙られてはないのだろうか。
そうならそうで、然しそうでないとして、彼の『御人好し』は強くもあるのだ。

つまり、彼も、やはり強い人なのだ。
彼のこの柔らかな性格は、一つの強さの象徴でもあるのだ。繊細に柔和であるとして。

「……あのね、エーミールさん」

「はい」

私は先生にとっておきの秘密を言うように、続ける。