[wrwrd]赤に溺れる６ (ページ2)

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＿＿サヨーナラ、また来週ね。
ばいばい、小さい手を振る。

夕日が囂々と燃えている。
黒いコンクリの道も塀も赤くなる。温かみと言えば、そうなのだろうか。

烏の影はない。声ばかりが残響を残すのである。
余りにも赤い日光は真っ直ぐに私に当たって、焼くように熱い。

肘辺りにかかる黒髪の端を見つめながら、履き慣れたスニーカーに足を突っ込んだ。
そろそろ潰れてしまうだろうが、足の成長の方が先かもしれない。

ふと眼を上げれば、お母さんが立っている。
薄いニットの白が赤みを差していた。薄い色のジーンズと紺のパンプスも相まって、多少赤の中にはアンマッチだった。

「＿＿＿＿＿」

お母さんは両の腕を広げていた。
頭の中に跳ね返って反射する言葉を前に、私は止まっている。

「……お母さんの事、嫌いになっちゃった？」

表情は解らない。眉を下げたのかも解らない。
私は、＿＿＿＿

.

＊＊

side yours

「……」

目が、醒めた。
指先、爪の先端までがシーツに沈んでいるのを知覚してしまったから、もう二度寝に期待はできなさそうだ。

ややあってから、私はするりとベッドを降りてしまう。
そして、書き物机の前に座って、頬杖をついた。

……随分と昔の事だった。
記憶に残っていたとも言い難いほどのそれを、脳の方はまだ焼き付けていたらしい、引っ張り出して再生してみたようだ。

明らかに、先程の研究者との対談のせいだろう。

「……」

母さんの事。
あの時私は何を思ってか、立ち尽くしていて。

どうしてだか母さんは、あんな事を訊いた。

私は、＿＿＿＿

……なんと、返したのだっけか。

全く、思い出せない。
その先の事は、メガの先を切り捨ててしまったかのように、ぷつんと途切れてしまっている。

お母さん。
母さん。

……。

首に吊り下げたリングをぐっと握り締めてみた。

寝る時までつけているこれは、プラチナ本来の美しさはきっと損なわれてしまっていると思う。手入れも真面にしていないから傷だって沢山ついているし、脂なんかも。
思い出して汚れを拭う程度の手入れで銀色が腐食しないのは、明らかにプラチナの強度の問題だろう。

「……パパ」

母さんの名前。
瀬名咲綾。覚えている。忘れる訳もない。

妹の名前。
瀬名明美。間違えもせず、流れて出る名。

……父親の名前。

あれ、と、思ってから、思い当って苦い顔になる。
……パパはパパだから、名前何て覚えていなかったのである。