恋のハザードレベル【ビルド短編２】 (ページ43)

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あの頃の貴方が優しくて【戦兎】ページ43

「………」

料理を作るAの手をジッとカウンター席から見つめている戦兎
その様子を見てAは首を傾げ
包丁をまな板にそっと置き「どうしたの？」と問いかけた

「…左手」

「？左手？」

「薬指に指輪してるから結婚でもすんのかなって…」

「？違うよ、これは兄から貰ったものなの。お守りだって」

…お守りに指輪って…変わった兄さんだな…。しかも左手薬指…

「そうだ、今度兄さん紹介するね」

「…おう」

「？どうしたの兎ちゃん、元気ないね？」

「別に…」

いやそりゃあ、元気も何もなくすでしょうよ。好きな相手が左手に指輪はめてんだぞ、しかも薬指に
俺が先にはめたかったのに…
って、何考えてんだ俺…
まだ告白だってまだなのに指輪だの結婚だの考えて
あー、もう頭の中が滅茶苦茶だ。

戦兎は頭をかき「あー」と小さく声を漏らした。そんな中
Aはできた料理を戦兎の前に並べ始める

そこには戦兎の好きなアジの開きがあり
目を輝かせた

「アジの開き…！」

「惣ちゃんから兎ちゃんはアジの開きが好きだって聞いて作ったの。あと、お味噌と卵焼き。美味しくできたかわからないけど…」

「…そっか。…いただきます」

箸を持ちアジの開きをほぐし口運ぶ

ふっくらした身と
口の中に広がるアジの旨み
焼き加減も
全てが完璧で

昔よくマスターが焼いてくれた
アジの開きと同じくらい美味しかった。

あの人コーヒーはまずいくせに料理は
天下一品だったな…

ふと箸をくわえながら昔のことを
思い出す

Aはそんな戦兎を見て優しく微笑み
「美味しい？」と問いかけた

戦兎はああ、美味しいよと答えようとAの顔を見た時だった

目を見開き箸をカランと落とした

戦兎に向けられたAの優しい笑みがマスターと似ていたから

あの頃の優しい笑顔が

マスターと重なる

はっ、と息をついて戦兎はうつむく

「兎ちゃん？…どうしたの、美味しくなかった…？」

「不味いわけないでしょ…美味いよ。」

くそ…最悪だ…

すごく泣きたくなってきた

涙をかくすよう
目に手を当て隠す

「…兎ちゃん……」

優しく頭を撫で
切なげな表情を浮かべた

「…ごめん、…何か涙が止まらなくてさ…どうしたんだろうな」

「………」

Aはキッチンから離れ
戦兎の座る椅子の隣に座り込んだ

「美味い…美味いよ。…だけど涙が止まらないんだ」

「……戦兎」

ぎゅうっと優しく抱きしめ包み込み
頭を撫でた